データベース技術が全国紙の一面を飾ったり,国際政治に関する討論のテーマになったりすることはあまりない。しかし最近,データ・マイニングが大いに話題になっている。「潜在的なテロリストを捜し出すために,米国などで通話記録の分析が行われている」という報道がそれである。筆者はここで,自分の政治的な意見を述べるつもりはない。指摘したいのは,こうした捜査手法は巨大なデータウエアハウスやデータ・マイニング技術なくして不可能である,という事実である。

 最近「Washington Post」紙の一面で,データ・マイニングに関する記事をいくつか発見した。7月12日には,「USA Today」紙が一面に「Data Miners Dig a Little Deeper(詮索を深めるデータ・マイニング)」という記事を掲載した。同日のUSA Today紙のビジネス面では,データ・マイニングとプライバシーに関連する問題の特集が組まれていた。この特集は非常に興味深い読み物だった。

 筆者は米Microsoftを狙い撃ちするつもりはないが,USA Todayの記事は「Hotmail」に基づいた実例から始まる。同紙によれば,MicrosoftはHotmailの利用動向について,電子メールを参照している時間などを調べているほか,ユーザーが登録したZIPコード(郵便番号)から想定される所得水準などを組み合わせて分析しているのだという。記事によるとMicrosoftは,「バレンタイン・デーの昼食時にメールをチェックをする高所得の30~40才の男性に薔薇の花のクーポンを届けるためなら,花屋は割増料金を払うということを知っている」そうだ。

 筆者はデータ・マイニングの専門家ではない。しかし,データ・マイニング技術は刺激的であり,この先10年間のデータ管理のあり方を変える大きな可能性を秘めていることを知っている。このニュースを読んだ筆者の感想は,「これは本当にすごい。もっと時間があったら,SQL Serverベースのデータ・マイニング技術の専門家になるのに」というものだった。さらに筆者は非常に保守的で,企業よりの考え方をしがちなので,筆者の次の感想は,「Microsoftもずいぶん賢明なことをするな。彼らがこういうことをするのも当然だ」だった。

 だが同時に,高校時代に「1984年(訳注:全体主義を扱ったGeorge Orwellの政治小説)」を読んだ筆者の心の中には,この技術が進化を遂げたらどうなるのだろうかと疑問に思う部分もあった。

 筆者がベンダーによるデータ・マイニング技術の使用を全面的に許可したら,こんなシナリオもあり得るだろう。例えば,「Microsoft Flowers」が私たちの電子メールや携帯電話のトラフィックをスキャンして,「筆者の妻はハワイのランが好きだ」という情報を入手し,500ドルのハワイのランを先回りして発送する,といったシナリオである(なぜ電子メールと電話のトラフィックの両方が分析ができるかというと,Microsoftが『統合メッセージ』戦略に注力しているからだ)。

 Microsoft Flowersは筆者のクレジット・カード請求情報にもクレジット・カード会社とのデータ共有契約を通じてアクセスしており,筆者がまだ妻にプレゼントを買っていないことも承知している。もちろん合意契約があるので,私はランを送り返すこともできる。だがMicrosoft Flowersは高度なデータ・マイニング技術によって「筆者は怠け者なので実際には送り返さない」ということも知っているので,ランを先回りして発送することは彼らにとって安全な投資だと判断するだろう。

 さて,Orwellのような仮説はもうこれくらいでいいだろう。データ・マイニングは間違いなく,プライバシーに関する問題を引き起こすだろう。データ・マイニングに関するプライバシー問題は,この先数年間に渡って広い範囲で議論されることと思う。

 今,あなたにとってデータ・マイニングから得られるものは何だろう。データ・マイニングは巨大な成長を遂げようとしているデータ管理分野の一部である。SQL Serverは,データ・マイニングにとって,ますます欠かすことのできないプラットフォームになってきている。そして,SQL Serverチームは向こう10年間に渡ってこのトレンドを持続させることの重要性を認識している。

 現在,Microsoftやその他のベンダーが販売するデータ・マイニング・ツールについて専門的な知識を持っている人の数は,比較的少ない。高度な技術を持つデータ・マイニング専門家の需要が10年間は増え続けるだろうということは,データ・マイニング分析をしなくても分かるはずだ。データ・マイニング技術が生み出すのは,果たして「ビッグ・ブラザー」(小説「1984年」に出てくる市民監視システム)なのだろうか,それとも「ビッグ・ビジネス」なのだろうか。