写真1 北海道テレビ放送(HTB)のワンセグ・データ放送TOP画面

 テレビ朝日系列局である北海道テレビ放送(HTB)は,2006年6月1日,道央圏で地上デジタル放送とワンセグサービスを同時に開始した。開局時点でのデータ放送の基本的な考え方は,『もっと地域が見えてくる』というコンセプトで,地域のきめこまかい情報を伝えるというものである。

 現在,北海道テレビ放送では,非連動データ放送として「ニュース」「天気」「番組情報」などを提供している(写真1)。ワンセグデータ放送の充実は2008年を目標に準備を進めているところで,現時点では番組連動のデータ放送サービスはまだ行っていない。

ワンセグ,固定の両面で“個”への情報提供

 北海道テレビ放送でデジタル放送のデータ放送の戦略を立案する立場であるコンテンツ本部編成戦略センター付局長 兼 クロスメディア編成・事業グループの吉田元氏は,「メディアの指向がマスから個に移りゆく時代の中で,地上デジタル放送の開始は,放送局が個に向けた情報提供するチャンスである」(コンテンツ本部編成戦略センター付局長の吉田元氏)と考えを語る。インターネット上のWebサイトやブログといった新しいメディアの発展・普及によって,個に向けての情報発信が拡大している。テレビ局はこれまで,テレビ放送というマスへの発信しかできなかったが,データ放送を活用することで個へきめ細かな情報発信ができるようになるというわけだ。

 さらに吉田氏は,「デジタル放送は,映像メディアと文字メディアが同居するメディアであり,映像と文字が一緒になって展開できればサービスの幅が広がる」とも語る。まず固定向けデータ放送をきっかけとして,今までターゲットにできなかった地域情報提供などへの可能性を検討している。その上で,「紙のメディアである新聞の文字情報を,データ放送のコンテンツに発展させることも考えている」(吉田氏)。文字情報コンテンツへ北海道テレビ放送の取り組みは多岐にわたり,他局に先駆けて固定型テレビ向けのメールマガジン「TVメルマガ」の提供や,固定型デジタルテレビに接続できるホームプリンタの利用を前提としてた印刷用コンテンツを充実させていることを強調した。

2008年までに本格サービスの準備を整える

 携帯電話は固定テレビと機能や性能が異なり,サービスの展開の仕方も異なる。固定型テレビは画面が広く,見栄えの良いコンテンツを提供できるが,キー入力が面倒。一方,携帯電話は画面が小さいが,キー入力機能と通信機能がついてる。このため,主に携帯電話を端末とするワンセグサービスの方が,双方向性のあるデータ放送に向いていると言う。その普及の仕方としては,「まず固定テレビを見ながらアップリンク回線としてケータイを使うようになり,さらにアップリンクとしての使い方が習慣化した後,携帯電話によるワンセグサービスのテレビ視聴とインターネット機能がセットで使われるようになる」(吉田氏)。

 北海道テレビ放送では,固定テレビ向け地上デジタルデータ放送を「地域の掲示板」と位置づけ,地域のさまざまな情報を積極的に提供している。地域の掲示板というコンセプトによるサービスは,固定テレビ向けだけでなくワンセグサービスでも展開する予定だ。ただし,主にローカル局の人的リソースの問題から,ワンセグサービスと固定のデータ放送の両方を同じように力を入れられないのが現状。さらに携帯電話を端末としたサービスに魅力は感じるものの,ワンセグサービス単体でのビジネスは先であるとの見方をしている。ワンセグサービスについては「2008年にサイマル放送の制限が切れると聞いている。そこをターゲットにしたスケジュールの中で,さまざまな仕掛けを考えていきたい」(吉田元氏)。

 ワンセグ向けデータ放送コンテンツについて「ワンセグサービスで観光情報が重要なコンテンツ」(コンテンツ本部編成戦略センター アシスタントマネージャ 大館文人氏)。そのため,観光情報を下支えする地域情報のコンテンツ化の準備を進め,「旅行代理店や観光協会などとコンテンツをためる仕組みを構築中」(大館氏)と説明する。まずはインターネットのWebサイトと携帯サイト向けコンテンツから構築を始め,ワンセグ向けのコンテンツ提供は,2008年を目標としている。

エリアの解決に向け既設の光ファイバ活用も

 北海道の特殊事情として,面積がとてつもなく広い点がある。地上アナログ放送が停波する2011年7月までに全てをカバーするためには,北海道テレビ放送の試算では中継用のテレビ塔を164本も建てなければならない。これが「鉄塔問題」である。さらに,これだけの鉄塔を建てたとしても,北海道の人口の90数%しかサービスエリアとしてカバーできない。

 エリアの拡大に対して,IP Multicastや衛星などを使ったIP再送信の手法を使う案もある。しかし,IP再送信では,カーナビや携帯向けのワンセグサービスに対応できない。そのため「IP Multicastや衛星はできるだけ使わず,地上の電波でカバーしていきたい」(吉田氏)。そこで,現在検討しているのが電波の届かない地帯に再送信する「ギャップフィラー」で,国土交通省が災害対策として国道に平行して敷設している光ファイバ網を利用するアイデアである(コラム参照)。

 国道沿いの光ファイバを活用するギャップフィラーは,既存のインフラを利用するためコストを抑えられるうえ,移動体向けのワンセグサービスの提供にも向いている。北海道の放送エリアの解決に向けた画期的な対策であると言う。

 「山に鉄塔を建てても人がいるとは限らない。道路のあるところに人が通い,そこに情報の必要性がある」(吉田氏)。この方式ならば,地域住民へのローカル情報発信に加えて,日本全国から来る多くの観光客向けにワンセグデータ放送で情報を提供することも可能だ。レンタカーで走る観光客が情報を入手する場所は,まさに道路だからである。「データ放送でテレビが“ローカル情報”発信メディアになり,そこにビジネスチャンスが生まれる」(吉田氏)と,ワンセグへの期待を語った。



コラム●光ファイバ網を利用したギャップフィラー

 このギャップフィラーは,地下街やトンネルで使用されるギャップフィラー(ワンセグの理解を深めるキーワード解説:「ギャップフィラー」参照)とは方式が異なる。

 光ファイバにUHF変調をかけて伝送する波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing:WDM)伝送方式を利用し,地上デジタル放送の放送波を光ファイバ網で伝送する。これは,既に光ファイバ網で地上デジタル放送/BSデジタル放送/FMラジオ放送などをRF(Radio Frequency)信号で再配信している事業者などで利用されている方式である。

 国土交通省の災害対策として国道に敷設されている光ファイバは,5k~10km間隔で電柱に光ファイバの口が出ている。そこで,この光ファイバ網を利用して,地上デジタル放送をRF信号のまま伝送し,その出口に小型中継機を取り付け,送信アンテナから再びUHF帯の地上デジタル放送を電波で放送する。これにより,近隣の集落や国道を通る自動車の受信機は,鉄塔から放送されているUHF帯の電波と同じようにワンセグを含む地上デジタル放送を受信できる()。

図 光ファイバを利用したギャップフィラー


■変更履歴
初出で「テレマガ」の表記がありましたが,正しくは「TVメルマガ」であり,訂正いたしました。