あなたが普段使っているスケジュール表を開いて欲しい。紙の手帳でもパソコン・ソフトでも構わない。そこに,どんな予定を書き込んでいるだろうか。おそらく予定が詰まっている日もあれば,空欄のままになっている日もあるのではないか。


図2 斎木氏がグループウエアで管理しているスケジュール表。
提案書作成のような1人で行うタスクも記入している
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 ダスキンの加盟店大手である武蔵野(東京都武蔵野市)で,企業向けを主力としたプロバイダー事業を担当する斎木修インターネット事業部課長のスケジュール表は違う。毎日びっしりとスケジュールが詰まっている(図2)。ITエンジニアとして飛び抜けて多忙だからというわけではない。スケジュール表の使い方が,普通とは違うのだ。

 開始時刻が決まっている会議や打ち合わせ,顧客訪問などのアポイントメントは,誰もがスケジュール表に書き込むだろう。斎木氏はそんな時刻の決まった予定だけでなく,期限までにやればよい「提案書作成」のようなタスクも記入している。すべてのタスクについて,いつ行うかを決めているのだ。

間際になって慌てないために



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 タイムマネジメントにおいてタスクの洗い出しの次に行うのは,スケジューリングである。その際に重要なのは斎木氏のように,すべてのタスクについて,実行予定の日時を決めてしまうことだ。

 一般的には,ある期限までにやればよいタスクが発生すると,スケジュールをチェックして実行する日や週を大まかに決めるにとどまることが多い。「2週間後までに提案資料を完成させる」というタスクが生じたなら,「来週やろう」と決めておくという具合だ。

 このやり方だと往々にして,期限間際に慌てることになる。期限まで2週間の余裕があるために,「時間が空いたときにやればよい」と考える。ついつい先延ばしにしているうちに,より重要な別のタスクが割り込んでくる。結果として十分な時間を確保できず,期限間際にやっつけ仕事で片づけるといった感じだ。

 斎木氏のようにタスクの発生時点でスケジュールを確認し,自分に対する「アポ」として時間を予約しておけば,こんな事態を回避できる。こういったやり方をしているのは斎木氏だけではない。ベリングポイントの奥井規晶・代表取締役やカブドットコム証券の齋藤正勝COO(最高業務執行責任者)も,重要なタスクについて自分に対するアポをスケジュールに記入している。それだけ効果的なテクニックなのだ。

前倒しで行う習慣が身に付く

 ただしやみくもにスケジュールを埋めていけばいいわけではない。斎木氏は自分へのアポをスケジュールに組み込む際には,なるべく早い日の空き時間に割り当てることが肝要だと話す。「そうすることで前倒しで仕事を行う習慣が身に付く。その結果,重要なタスクに十分な時間を確保できないという問題を解消できる」(同)からである。

 ここで「新しいタスクは毎日発生する。あらかじめ時間を押さえておいてもキャンセルせざるを得ないのでは」と思うかも知れない。もちろん,そうなる可能性は高い。だとしても,“自分へのアポ”だけに融通はきく。一度決めた日時に固定する必要はなく,より重要なタスクが発生したり逆に空き時間が生まれたりすれば,タスクを別の日時に振り替えればいい。

 重要なのは無駄に過ごしがちな「空き時間」をなくすと当時に,重要なタスクに使える時間を確保することである。

優先順位を決めるテクニック

 もう1つ,タスクをスケジュールに組み込む際に考える必要があるのが,どのタスクを先に行うかという優先順位付けである。この点に関して,日本タイムマネジメント普及協会の行本明説・事務長は「タスクの優先順位は,しっかり考えないと間違えやすい」と指摘する。

 原則としては緊急性と重要度を勘案して決めるべきだが,行本氏によると「嫌いな仕事より好きな仕事」,「難しい仕事より易しい仕事」,「新しい仕事より慣れた仕事」といった具合に,無意識のうちに楽なほうのタスクを優先する傾向があるという。そうした傾向があることを踏まえて,「逆の選択をするように心がける必要がある」(行本氏)。

 自分がタスクを終えた後に,その結果を他の人が引き継いでどれだけのタスクを行うのかも,要考慮点だ。一例がテストケースの作成。早めに作ってしまえば,テストの実施者は前倒しでタスクをこなすことができる。自分のタスクの結果を受けて仕事をする人の都合も考慮して,スケジューリングすべきである。

バッファを確保する



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 1日単位で実行するタスクを決めても,その日のうちにすべて完了できるとは限らない。急に別のタスクが割り込んできたり,予測した時間内にタスクが終わらないことは決してまれではない。こんな時はどうすればいいのか?

 結局のところ解決策は,余裕時間(バッファ)をあらかじめ確保しておくことに尽きる。具体的にどれだけのバッファを確保すべきかは,職種や立場によってバラバラだ。

 サイバーテックの白井千晶・取締役システム開発部長は,毎日3時間は予定を入れない時間を確保している。「プロジェクト・マネジャーとして若手社員の指導・相談や作業の支援をしており,そのために1日のうち数時間を取られることもある。自分自身の時間に余裕があるわけではないが,そのために毎日3時間を確保している」(白井氏)。バッファを使わないで済んだときには,「もちろん翌日にやる予定のタスクを前倒しで片づける」(同)。

 一方,コクヨの福田幸博・バリューチェーン再構築プロジェクト・システム担当リーダーは,バッファを1日に1時間だけしか確保しない。その1時間はもともと,ITに関する情報収集のために用意している時間である。「必要以上にバッファがあると気持ちがゆるむ」(福田氏)との考えがあるからだ。

 現実には,忙しい毎日のなかで十分なバッファを確保するのは難しいだろう。それでも最低限,気を付けるべきことがある。

 休日をつぶして仕事をした経験は,ITエンジニアなら誰にもあるはずだ。これは休日をバッファにしていることにほかならない。このバッファがなくなると,どうなるか想像して欲しい。タスクの実施日を決める際には,「休日は最後のバッファであることを認識して極力空けておくべきだ。よくスケジュールが破綻する人の仕事のやり方を見てみると,最初から休日を当て込んでいる場合が多い」(ボストン コンサルティング グループの八橋雄一ヴァイスプレジデント)。

(中山 秀夫)