行財政改革シンポジウム2006の様子

■6月30日に海運会館(東京都千代田区)で、「行財政改革シンポジウム2006 公会計改革による地方自立の推進~行政経営の可視化と効率化に向けて~」(主催:日経BPガバメントテクノロジー)が開催された。

 公会計改革への高い問題意識を持つ埼玉県草加市、新潟県上越市、岐阜県が登場。それぞれの自治体における会計制度の改革に対する取り組みについて、スピーチとパネルディスカッションを行った。その模様についてお伝えする。(本間康裕、写真/吉田明弘)

【参加自治体】
  • 埼玉県草加市 市長付特区・地方財政自立改革担当特命理事 中村 卓氏
  • 新潟県上越市 安塚区総合事務所総務・地域振興グループグループ長/前行革推進課副課長 笹川 桂一氏
  • 岐阜県 総合企画部次長情報化推進担当 知地 孚昌氏
【モデレータ】
  • ウッドランド社長、スタンフォード日本センター理事 安延 申氏


モデレータ・安延申(ウッドランド社長、スタンフォード日本センター理事)
 公会計改革は、もともとは貸借対照表(バランスシート)と行政コスト計算書の二表を整備しようという目的で、90年代の終わり頃から動きがありました。2006年5月に新地方公会計制度研究会が、資金収支計算書、純資産変動計算書を加えて4表の作成を提言しました。では、そうした公会計改革が進む中で、先進的な取り組みをされている三つの自治体の方にお話を伺いたいと思います。

■ストック情報の管理に難あり──建物と設備が分かれていない

中村卓氏の写真
埼玉県草加市
市長付
特区・地方財政
自立改革担当
特命理事
中村 卓氏

中村卓(埼玉県草加市市長付特区・地方財政自立改革担当特命理事)
 今から10年前私が財政課長をしていた当時、予算書は款項目節という昔からの分類でした。その後、1997年にバランスシート作成を始めました。この時にIT化を進めながら、事業別に予算書をまとめることと、連結財務諸表を作成して公表することを同時に行いました。2001年には総務省方式(注1)に移行すると同時に若干の見直しをして、3年ほど前に行政コスト計算書を作成し、公表しました。

(注1)総務省が提唱した会計方式。バランスシートと行政コスト計算書の2表からなる。簡易で作成が楽という長所と資産や債務の状況が分かりにくいという短所がある。2006年5月18日に公表された「新地方公会計制度研究会報告書」では、純資産変動計算書と資金収支計算書を導入した「総務省方式改訂モデル」を提唱している。

 この過程で一番痛切に感じた問題は、ストック情報の管理ができていないということです。数量ベースの台帳はあるのですが、複式簿記がないので価格が載っていません。それから、インフラ資産は所管課が個別に管理をしていて、統一的に管理をする部署がありません。下水道は下水道法に基づく管理を下水道課が、道路は道路法に基づく台帳管理を道路課が行っています。

 また河川や水路は台帳を作る義務がないもので、元台帳そのものがありません。それから建物も、「建物」と「設備」が分けられていません。減価償却という概念がないので、設備も含めて一括して「建物」になっています。

 それから、自治体の資産は売ることができないものが大半です。その中で「インフラ資産」と「それ以外の資産」という分け方もあるし、「行政財産」と「普通財産」という分け方もあります。その辺の区分が非常にあいまいで、せっかくバランスシートを作っても不正確なのではないかと、疑心暗鬼になりながらも、作業を進めてきました。

笹川桂一氏の写真
新潟県上越市
安塚区総合事務所
総務・地域振興
グループ
グループ長
/前行革推進課
副課長
笹川 桂一氏

笹川桂一(新潟県上越市安塚区総合事務所総務・地域振興グループグループ長/前行革推進課副課長)
 私達は、あくまで職員の私的勉強会ということで取り組んできました。上越市の組織の話ではありませんので、まずお断りしておきます。

 勉強会の発足ですが、私と勉強会の責任者を務めた人物が2002年に会計課に配属になりました。当時はペイオフの対応に迫られていて、ペイオフ委員会を組織しなければならず、その委員長にふさわしい人材を紹介してもらうために、地元の大学にコンタクトを取りました。すると、ちょうど(公会計研究の第一人者である)桜内文城新潟大学助教授が、財務省から大学に赴任されたところでした。そこで桜内先生に、ペイオフ委員会の委員長をお願いしたわけです。

 先生からは、ペイオフだけでなく会計制度全体について様々な話を伺いましたが、そのやり取りの中で学んだことが二つあります。一つが受託者責任ということ。市民から市の公金の運用を任されていて、その責任については、まず始まり(予算)があり、終わり(決算)があるということです。もう一つは、責任の明確さです。責任が不明確な情報公開は、アカウンタビリティの名に値しないということです。そういう意味では、今現在の単式簿記・現金主義の公会計は、アカウンタビリティに値しないのだと認識できました。

【おわびと訂正】本稿複数カ所で「上越市」とすべきところが「柏崎市」となっていました。おわびして訂正します。(編集部、2007年2月26日)