ノークリサーチ代表 伊嶋 謙二 氏 伊嶋 謙二 氏

ノークリサーチ代表
矢野経済研究所を経て98年に独立し、ノークリサーチを設立。IT市場に特化した調査、コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意としている。

 最近、ソリューションプロバイダを取材していてよく聞くのが、「内部統制」や「日本版SOX法」などでユーザーのITへの関心は高まっているし、セミナーなどの集客も良好だが、いざ商談になると時間がかかるということだ。IT導入以前に、企業内部の管理体制や業務の見直しをせざるを得なくなってきていることが理由のようだ。

 例えば、簡単な認証だけで経費処理ができるようになっていないか、それをチェックする機能はあるのかなど、企業として当然行うべき“まともな経営”をしているかどうかをまず調べなくてはならないからだ。

 ITは単なる道具にすぎないし、誤解を恐れずに言えば、ITなしでも経営は可能だ。ともすればIT初めにありきがごとく喧伝されているが、勘違いしてはいけない。人と企業こそがすべての主体である。少し当たり前すぎるが、現状の「盛り上がりの異常さ」には少し疑問を感じる。

 内部統制や日本版SOX法などの単語が最近これでもかと言うほどいろいろなメディアに踊っている。その単語を冠したセミナーやイベントも実に多い。これらの言葉は十分に“今”を表すキーワードであり、企業にとって必要かつ不可欠な要素だ。企業にとって守るべき倫理でありモラルである。その意義は過去も現在も同じ重みを持っている。セミナーの本質が経営者向けに警鐘を鳴らすことに置かれているならば、非常にその意義は大きい。

 ところが実際は「IT」的な観点(=ベンダー側から見れば“おいしい環境”)で、それらのキーワードが語られすぎている。それは筆者も含めたIT関連でビジネスをしている企業、個人にも思い当たる点が多いはずだ。肝心なことは尻馬に乗って一儲けしようと考えないことだろう。過去の反省があるはずだ。一体いくつの3文字略語が生まれては消えたことか。

 ERPのセミナーでは、あたかもERPの導入が内部統制や企業透明性確保の最良な手段であるのかのようにアピールしているのが目立つ。だが、ERPは企業経営の中で「バックオフィス業務のそれぞれのシステムを統合して、データを一元化して利用するもの」である。要はバックエンドにあって、企業の業務処理データを入力、集計、出力する役割を果たす。ERPで企業の内部統制を実現するためには、別のソリューションと組み合わせる必要があるはずだ。

 賢明なユーザー企業は、内部統制のようなキーワードとITとを別次元でとらえている。ベンダー側も、あくまでユーザーの視点でITを道具として提案すべきだろう。

 内部統制は、上場企業や大企業およびその関連企業などを中心に今は問われているが、本質は企業規模に関係なく存在している。中堅・中小企業も当然、内部統制には大企業同様に取り組まなければならない。中堅・中小企業にとってもITは企業活動をサポートする有効なツールであり、内部統制を実現する助けにもなる。

 一方で、企業の不正監査報告、企業トップによる売り上げの水増し操作、社員・職員による不正経費捻出などのお金に関する諸問題、個人情報漏洩については当のIT業界でなんと多いことか。ユーザー企業に提案する前に、「企業が、経営者が、社員がしなくてはならないこと、してはならないこと」の議論をもっとすべきである。