文・清水惠子(中央青山監査法人 シニアマネージャ)

 実践編第2回目では「行動成功要因」ついて説明したが、今回はその「行動成功要因」をさらに具体化する行動計画についてそのご利益は何かを記載したい。行動成功要因は「防災、防犯対策を進める」といった大枠を抽出たものであり、防災、防犯対策を実現するために、具体化された行動のスケジュールが必要になる。

■行動成功要因を具体化する--行動計画を3段階工程表で明確に

 そのためにはまず、行動成功要因分析で選択した行動成功要因について、目的手段分析を実施することになる。優先度が高いとして選択された行動成功要因ごとに、グループに分かれて、具体的な行動計画(アクションプラン)について検討する。

 一つひとつの行動成功要因について、各グループの参加者は、その成功要因を実現するためのさらに具体的な行動を何枚かのカードに記入する。参加者のカードが出揃ったら、そのカードを第2回目の行動成功要因の分析作業の時と同様に、手段とそれによって達成される目的に並べ替える。これが目的手段分析である。目的と手段の連鎖が行動成功要因の時よりも具体的になっているため、連鎖が繋がっていることがさらに重要である。

 川口市の例をみてみよう。例えば、同市において最優先の行動成功要因であった「防災、防犯対策をすすめる」の具体的な対策を実現する各種行動計画として、具体的な行動のカードを作成する。目的手段リストは、この具体的な各種行動計画の因果関係を整理したリストである。具体策として防災マニュアルの作成や、警察官の増員など行政側の取組と市民のボランティアによるパトロール等市民参加の防犯活動等の取組の両面のアプローチがあげられている。これらの具体策を実現しやすい順番に因果関係を考慮して並べ換え、行動を具体的に実現するための計画として行動計画を構築していくことになる。

業務・システム刷新化の手引き(総務省)
実践編「自治体EAの実践方法」 > 1.6)目的手段分析
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/system_tebiki/jissen/content01-06.html

 市の全体の視点と担当課の視点から、いろいろな行動計画が検討されている。参加者が自分達自ら合意を形成しながら、行動計画を作成する作業を実施することにより、行動成功要因を実現する計画への参加意識を高めることができ、業務改善の行動を円滑に運ぶ素地ができることになる。これが「目的手段リスト」の"ご利益"である。他からの押し付けではなく、自らが作成した計画を自ら行動して実現を目指すことになる。

業務・システム刷新化の手引き(総務省)
IV.資料編3:事例集 > 新規事例:川口市 > 刷新化の方向性(2) > IT推進委員会
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/system_tebiki/jirei/kawaguchi/
houkousei02/nisshi-houkousei-iinkai.html


IV.資料編3:事例集 > 新規事例:川口市 > 刷新化の方向性策定(2) > IT推進委員会 > 成果物3. IT推進委員会 目的手段リスト
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/system_tebiki/jirei/kawaguchi/
houkousei02/seika-05-iinkai-moku-shulist.pdf

 因果関係付けをした後で短期、中期、長期の3つの段階に分けて行動計画を区分している。

 これは、すぐにやること、次にやることを区分して実現しやすい計画を策定することが主眼であり、短期、中期、長期の長さは、絶対のものではない。具体的な方策の推進の順序について参加者が合意し、この計画を納得することに意味がある。「3段階工程表」は、この短期、中期、長期の3段階に行動計画を整理して区分した表である。3段階工程表の作成段階で目標手段リストの再整理と確認をすることになる。この工程表では段階1で計画を策定し、段階2で実施し、段階3で目標の達成とさらなる躍進のための施策に取り組むことになる。

業務・システム刷新化の手引き(総務省)
実践編「自治体EAの実践方法」 > 1.7)3段階工程表検討
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/system_tebiki/jissen/content01-07.html

 ここで留意すべきは各段階ごとにその達成されるべき目標があることが必要な点である。段階1で準備して段階3でやっと効果があらわれるものもあるが、段階1で具体的な効果が現れる行動も含んでいることが重要である。段階的に目標が実現されていくことにより、意欲が高まることになる。3段階に区分することにより、段階的に実現できる行動計画が策定されるのである。努力しなければ実現はしないが、段階的に努力すれば実現できる。つまり、無理をしないが精一杯やるという姿勢が生まれ、行動成功要因を実現しやすくなるのである。これが「3段階工程表」作成の"ご利益"である。

 何を先に行って次にどのステップを踏むか、これがこの表で可視化される。計画の実現には、条例や規則の新設、変更といった時間のかかるもの予算措置が必要なもの、市民の協力や理解を得るためのPRが必要なものなどもある。防犯や防災は特に市民の協力体制や協調関係の構築が重要であり、息の長い活動が求められるが、すぐに着手すべき課題でもある。例えば、段階1で掲げられている「市民の防犯意識を高める。自主防犯組織の活動支援」は、段階2で「防犯パトロール強化」、段階3で「防犯パトロール参加者増加」と段階的にステップアップをしている。 ちなみに段階1の「市民の防犯意識を高める。自主防犯組織の活動支援」は、先に市長が公表した川口市マニフェストで掲げられている項目でもある。

業務・システム刷新化の手引き(総務省)
IV.資料編3:事例集 > 新規事例:川口市 > 刷新化の方向性(4) > IT推進委員会 > 成果物1. IT推進委員会 3段階工程表
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/system_tebiki/jirei/kawaguchi/
houkousei04/seika-01-iinkai-3dankotei.pdf


IV.資料編3:事例集 > 新規事例:川口市 > 基本方針の提示 > 2.マニフェスト
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/system_tebiki/jirei/kawaguchi/
kihonhoushin/siryo-manyu.pdf

■目標を明確に定める--できるだけ数値化した行動目標を設定

 行動計画が3段階工程表で明確にされたら、今度は、行動目標を設定する。行動目標設定は、行動計画が成功したかどうかを計るための指標作りであり、できる限り、その達成度合が明確になるように数値化されることが望ましい。成果を数値で表現することで、その達成度を可視化できる。資源には限りがあり、ヒト、モノ、カネを効果的に配分し、その効果を得ることが、民間の経営においても行政においても重要である。この行動目標を数値で具体化することは、資源をどのように配分し、活用することが、市民満足等の最終目標にたどり着くかを明確にする。これが「行動目標設定」の"ご利益"である。

 市民の納得できるサービスを限られた予算の中で提供できたか、資源(ヒト、モノ、カネ)の状態をその「品質(Q)」「コスト(C)」「時間(T)」で測定する。ここで再度、留意すべきは「因果関係」の一言である。ヒト、モノ、カネが、ある状態の指標を達成することが最終目標とどのように結びつくのかが重要である。例えばある証明書を作成するソフトを購入し、手作業での証明書作成時間を3分削減したとしよう。そうすると証明書作成の作業が短縮し、市民の待ち時間が3分短縮して、市民の満足度が高まるかもしれない。しかし、もしIT投資により、証明書作成で3分の削減をしたとしても、その後、証明書を引き渡す作業が停滞する何らかの要素があった場合はどうだろう。この問題が解消されていないと、結果的に3分の削減効果は市民サービスの向上に反映されず、手作業で証明書を発行していたよりもコストがかかっただけになってしまう。

 最終目標が市民満足であり、その具体的な効果を得るために経営資源のどのレベルのQCTのどの状態まで達成されなければならないかを考慮した目標を設定することが重要なのである。よって、証明書発行作業の3分短縮がその行動目標ではなく、その結果として市民の待ち時間が3分短縮されることが達成すべき行動目標となる。

業務・システム刷新化の手引き(総務省)
実践編「自治体EAの実践方法」 > 1.8)行動目標設定
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/system_tebiki/jissen/content01-08.html

 次回からは、目標を達成するための具体的な業務改善に向けて業務分析を紹介する。

清水氏写真 筆者紹介 清水惠子(しみず・けいこ)

中央青山監査法人 シニアマネージャ。政府、地方公共団体の業務・システム最適化計画(EA)策定のガイドライン、研修教材作成、パイロットプロジェクト等の支援業務を中心に活動している。システム監査にも従事し、公認会計士協会の監査対応IT委員会専門委員、JPTECシステム監査基準検討委員会の委員。システム監査技術者、ITC、ISMS主任審査員を務める。