■前回の記事からかなり時間が空いてしまったことをお詫びする。前回はどんなものがよいドメインかを紹介したが,ユニークな造語を考えるのでなければ,一般的に「よい」と言われるドメインを探して登録することは不可能に近い。そこで今回は,だれかが取得済みのドメインを購入することについて紹介する。



 今回解説するのは,ドメインを購入する側についてである。ほとんどの読者は,売るためのドメインを所有していることはないだろうし,もし売れるドメインを所有しているような人なら,改めてこのような記事を読むまでもないと思われる。

 「よいドメイン」を取得したいだけであれば,まず目的のビジネスに適したものを片っ端から調べていくという方法がある。例えば,コンサートや演劇のチケットを扱いたいのであれば,「ticket」「reserve」「yoyaku」といった言葉に関連するドメインを調べるといった具合である。ビジネスが日本に限定されるなら「.jp」(あるいは会社を興すのであれば「.co.jp」など)も対象に入れてよいだろう。「.jp」は維持費が高い分,転売目的で取得されているものは限られているので,「.com」などのgTLD(generic Top Level Domain)に比べて取得できる可能性は高い。

 適当なキーワードと組み合わせる手もある。名前と組み合わせて「TicketOhno.com」というドメインを使うといった具合だ。もっと一般的な言葉,例えば「TicketOffice」とか「TicketMaster」「CheapTickets」のようなドメインを使いたい場合,これらが空いていることはほとんどないので「購入」という手段を考えることになる。

 もちろん,既に実際のサイトとして使われているようなドメインは候補から外さなければならない(ただのアフィリエイト・サイトであれば別)。こうした候補から,初期のビジネスの規模,どこまで成長させたいかということを念頭に置いて,予算を考えればよいだろう。

 ドメイン名は,マーケティング・プロモーションの1要素だと考えればよい。既に運営されている会社名であるとか,サービスの名称ということでもなければ,必ずしも大きな投資を考える必要はない。GoogleやLiveDoorのように造語や複合語でビッグ・ビジネスを成し遂げた例もある。一方,大規模なビジネスやマーケティングを考えているのであれば,その一部として(価値ある)ドメイン名への投資を考えるべきだろう。

ドメインの所有者はだれか

 基本的にドメインは,所有者の情報を公開することが定められている。この情報は,レジストラ(またはレジストリ)のwhoisというデータベースに記録されている。例えば「.jp」ドメインならば,http://whois.jprs.jp/が使える。

 gTLD(.com/.net/.org/.biz/.info)の場合は,例えばhttp://www.betterwhois.com/http://www.domaintools.com/などのWebサイト,あるいはNetwork Solutionsのwhois機能で,whois情報を調べられる。

 登録されているレジストラが分かっている場合は,そのレジストラのサイトで調べられる。ただし,whoisサーバーへの機械的なアクセスを防御するために,イメージ表示されたパスワードの入力を要求するところもある。

 そのほかのccTLDについても,それぞれのTLDに対応したwhoisサーバーのありかを調べることはできる。TLDによっては詳細を表示しない場合もあるが,いずれにせよこうしたものを「購入したくなる」ケースはほとんどないだろうから,ここでは取り上げない。

whoisの読み方

 リスト1は「nikkeibp.co.jp」ドメインについて調べたものである。日経BP社が所有していることが分かり,登録担当者名をクリックすれば連絡先も表示される。ただし,場合によってはここに「本当の所有者」が表示されないことがあるが,これについては後述する。


Domain Information: [ドメイン情報]
a.[ドメイン名]                 NIKKEIBP.CO.JP
e.[そしきめい]
f.[組織名]                     日経BP社
g.[Organization]               Nikkei Business Publication, Inc.
k.[組織種別]                   株式会社
l.[Organization Type]          Incorporation
m.[登録担当者]                 AK024JP
n.[技術連絡担当者]             AK024JP
p.[ネームサーバー]               bpwww.nikkeibp.co.jp
p.[ネームサーバー]               ns.biztech.co.jp
p.[ネームサーバー]               ns1.iij.ad.jp
[状態]                          Connected (2007/01/31)
[登録年月日]                    1995/01/19
[接続年月日]                    1995/02/21
[最終更新]                      2006/02/01 01:21:01 (JST)

リスト1●「nikkeibp.co.jp」のwhois情報

 リスト2は,w3.org(World Wide Web Consortium)のwhoisである。


Domain Name:W3.ORG
Created On:06-Jul-1994 04:00:00 UTC
Last Updated On:09-Jul-2004 07:54:25 UTC
Expiration Date:05-Jul-2013 04:00:00 UTC
Sponsoring Registrar:Gandi SARL (R42-LRMS)
Status:CLIENT DELETE PROHIBITED
Status:CLIENT TRANSFER PROHIBITED
Status:CLIENT UPDATE PROHIBITED
Registrant ID:0-511319-Gandi
Registrant Name:World Wide Web Consortium
Registrant Organization:World Wide Web Consortium
Registrant Street1:545 Tech Square
Registrant Street2:
Registrant Street3:
Registrant City:Cambridge
Registrant State/Province:
Registrant Postal Code:02139
Registrant Country:US
……
Name Server:NS1.W3.ORG
Name Server:NS2.W3.ORG
Name Server:NS3.W3.ORG

リスト2●「w3.org」のwhois情報

 実際には,ここに管理者の電子メール・アドレスや電話番号などが表示されており,連絡できるようになっている。つまりwhoisの情報を利用すれば,そのドメインの所有者に「購入の意図」を伝えられるのである。このように管理者情報を公開しているのは,匿名で不正にドメインを取得すること(サイバー・スクワッティング)を避けるためである。

 「.com」や「.net」のwhoisは,少し面倒な場合がある。「whois.internic.net」というwhoisサーバーを使って,レジストラのwhoisサーバーを確認してから,改めてwhoisを確認する必要があるためだ。前述したwhoisを調べるWebサイトを利用すれば,大抵,自動的に処理してくれる。なお,レジストラのwhoisサーバーによっては反応が悪く,個人情報にたどり着けない場合がある。ブラウザで,実際に目的のドメインを表示させて連絡する手段が提供されていれば,それを使う。そうでなければ,売る意思はないと思って諦めるしかない。

whoisの保護

 何年か前から,「ドメインを登録したいが個人情報を公開したくない」という人のために,whois情報を代行するサービスが登場した。つまり,レジストラ(ドメイン登録業者)が,住所や電話番号,登録者名などを肩代わりしてくれるわけだ。

 whoisの代行は大きく2つに分けられる。1つは,住所にレジストラのものを使い,電子メール・アドレスを暗号化されたようなものに置き換える方法である。この場合,暗号化された電子メール・アドレスにメッセージを送信すれば実際の所有者に転送される。

 もう1つは,whois情報をそっくりレジストラのものに置き換えてしまう方法である。この手法は,日本のレジストラに多いようだ。この場合,ほかのレジストラにドメインを移管しようとしてもできないことがある。私見ではあるが,レジストラに対してどのような不満や問題が出るとも限らないので,この種のサービスは利用すべきではない。

 whoisを参照すると連絡方法が書かれている場合もあるが,所有者情報を隠しているということは売却の意図はほとんどないと思われる。whoisの反応がない場合と同じように,そのドメインをブラウザでアクセスした場合に,連絡手法が提供されているのでなければ,別のドメインを探すほうがよいだろう。

売り出し中のドメイン

 目的のドメインが積極的に売り出されていれば,もっと簡単にドメインの所有者に連絡を取れる場合もある。そのドメインを実際にブラウザでアクセスしてみて,図1のように「This domain may be for sale by its owner! More details...」と表示されているような場合である。あるいは図2のようにアフィリエイト・リンクだけが表示されている場合もある。

 sedoやafternicといったドメイン取引ポータルで,目的の言葉に合うドメインを探すという手もある。

図1●積極的に売り出されているドメインの例
[画像のクリックで拡大表示]
図2●アフィリエイト・リンクだけが表示されているサイト。これも売り出されていると考えられる
[画像のクリックで拡大表示]

所有者に連絡する

 whoisを見て所有者が日本人であれば,日本語で取引を持ちかけてみればよいだろう。しかし,ローマ字ドメインの場合でも,所有者が外国人という場合は少なくない(特にgTLDの場合)。海外ではドメイン取引が日常的に行われているため,ブローカーが日本名にも着目して主要なものを抑えているためだ。この場合,英語で連絡しなければ通じないことがある。

 例えば,次のように聞いてみることができる。


Dear sir,

I'm Nantoka Kantoka.
I'd like to ask whether the domain "domain-name.com" for sale or not.
If so, how much are you looking for it.

Best Regards,
Nantoka Kantoka

 相手が所有するドメインが1つとは限らないので,どのドメインに興味があるのかをはっきり書いておこう。ここでは,ドメインが売り物(for sale)であるか,そうなら値段はいくらかを尋ねている。ただし,そのときにリーズナブルな値段が返されるとは限らない。大抵のドメイン所有者は「大きな取引」を期待しているし,大抵の購入希望者は「小さな出費」で済ませたいと考えているからだ。

 金額が提示されるのはよい方だ。実際,専門業者の中には,ある程度の取引を続けないとビジネスを維持できないこともあり,具体的に金額を提示してくれるところもある。この金額が予算とかけ離れているなら,諦めて次のドメイン候補を探せばよいし,交渉可能な範囲と思えば,値下げ交渉に入ればよい。どうしても欲しいドメインに支払い可能な金額が提示されたら,先延ばしせずに支払ってしまう方がよいこともある。汎用的なドメインがリーズナブルな金額で売り出されていれば,他にも購入希望者がいるかもしれないからだ。

 売買に積極的でない,あるいは本当に大きな取引にしか興味がない所有者の場合,金額が提示されず,逆にオファー(入札)額を聞かれることがある(具体的な金額を提示するまで返信が来ない場合もある)。その方が,所有者が思っていたよりも大きな取引になる可能性があるからだ。そういうケースはめったにないが,良質のドメインを多数所有していれば,売り急ぐ必要がないということはある。

 この場合も,本当の(最大の)予算を提示して,相手の受諾を待つか,ある程度少なく提示して交渉を始めるか,あくまで相手の提示が出てくるのを待つか,どの戦法が最も出費を抑えられるかは分からない。

安全に取引する

 所有者とのやりとりで金額面での交渉が成立しても,まだ安心はできない。一般的なオークションと同様,見知らぬ相手との取引であり,相手が知り合いということでもなければ,用心しておくにこしたことはない。「捨ててもいい金額」というわけでもなければ,エスクロー・サービスを利用する方がよいだろう。

 エスクロー・サービスとは,ご存知の方も多いと思うが,直接相手と取引する代わりに,仲介役となってくれるものである。一般的なやり取りは,買い手がエスクロー・サービスに代金を支払い,売り手から買い手に品物(この場合はドメイン)が譲渡され,譲渡が確認されたらエスクロー・サービスが預かった代金を売り手に支払う,という手順になる。エスクロー・サービスにかかる費用を売り手か買い手のどちらが負担するかは,あらかじめ決めておく。買い手が希望してサービスを利用するなら,普通は買い手が負担することになるだろうが,これも交渉のうちである

 ドメインを扱うエスクロー・サービスとしては「escrow.com」や「sedo.com」が知られている(どちらも英語のサービス)。「escrow.com」の方が安価で実績も多いが,ドメイン取引に関してはsedoの方がより安全な手段を採っている。sedoでは,ドメインの移管についてもサービス側が仲介するためだ。つまり,sedoは買い手の代金だけでなく,売り手のドメインも預かるのである。このような方法を取っているのには理由がある。

 ドメインは形のある品物でないため,エスクロー・サービスを通じても,まれに問題が発生することがあるためだ。品物を送付する場合は,宅配便の伝票などで受け取りの証明代わりになるが(この場合も「品名」欄に嘘を書かれたらどうしようもないが),ドメインは移転の完了は外部からはwhoisなどで確認するしかない。例えば,売り手がドメインを譲渡したのに,購入者にwhoisを隠匿されて譲渡が完了していないと判断されてしまった話や,購入したドメインが元々不正な取得によるもので,ドメインを取り上げられてしまったという話があるようだ。

ドメインを購入したら

 通常のドメインを扱うのと同じだるが,対価を払ったドメインならば余計に配慮が必要だろう。期限切れなどで失効しないようにすること,whoisに間違いがないことを確認すること,移管を禁止(LOCK)しておき,第三者による盗難を避けることなどに注意しよう。また,afternicやsedoなどを使う場合,ドメイン取引が公開されるので,万一に備えて,こうした情報を悪用したフィッシング・メールが届くかもしれないことにも注意しておこう。


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