無線LANの電波は木製の壁やガラスは透過するが,コンクリートや金属などには遮へいされてしまうことがある。特に5GHz帯の電波は,2.4GHz帯より透過性が低い。無線LANを導入する場所に厚いコンクリートの壁や金属性のキャビネット,扉があるような場合は工夫が必要になる。

 鉄板入りのハイパーティションを利用しているオフィスでは,無線クライアントとなるPCが机上でパーティションの陰に隠れてしまう。この場合は,アクセス・ポイントを天井面などに設置し,頭上の空いている空間を使うようにする。

 自社が利用している無線LANの電波が外部に漏れないよう,この特性を逆に利用することもできる。鉄筋の入ったコンクリートの壁から外部に電波は漏れにくいが,ガラス窓からは電波が漏れやすい。そこで,電波を遮へいするフィルムをガラスに張れば,漏えいを最小限にできる。

複数アクセス・ポイントの設置

 アクセス・ポイントを複数設置する場合,電波干渉を起こさないようにどの程度の間隔でどこに配置するかが難しい。

 最善の判断方法は,当然のようだが導入予定の場所にアクセス・ポイントを仮設置し,到達距離を実測してみることである。机,キャビネット,パーティションなどの有無,建物の壁,天井などの素材,構造,形などによって,電波の状況が変わるからだ。また,近隣で同じ周波数の無線を使っている場合もある。


図5●通信レートの確認
通信レートを確認し,信号品質の確認をする。実環境での測定が難しい場合はサイト・サーベイ・ツールを使って設計することもできる
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図6●自動キャリブレーション
アクセス・ポイント同士が電波を出し合い,最適なチャネル,送信出力の設定を生成する
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図7●自動キャリブレーションの落とし穴
天井裏のアクセス・ポイント同士では電波干渉が発生しないと判断し,同一のチャネルを設定すると,フロアのクライアント側で電波干渉が発生する場所ができてしまう
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 通信レートの確認にはいろいろな方法がある(図5[拡大表示])。例えば,無線LANカード(アダプタ)に付属しているユーティリティを使い,信号強度やSNR(Signal to Noise Ratio:信号対ノイズ比)の値を見るという方法もある。だが,この値の意味が難しい。簡単な方法では,ノートPCなどを使ってPingやHTTPなどで通信し,レートを確認する。54Mbpsなら申し分ないが,36Mbps以上であれば許容できるだろう。

 実環境での測定が難しい場合,サイト・サーベイ・ツール*2を使って設計し,設置場所を決めることもできる。このツールでは,広さや確保したい通信レートなど基本的な情報を入力するだけでよい。無線LANスイッチ*3を用いると,通信レートやSNR,RSSI(Receive Signal Strength Indication:受信信号強度)を無線LANスイッチ側で確認できるので,測定が比較的容易にできる。

便利な自動キャリブレーション

 設計と現実に多少の誤差があっても,企業向けアクセス・ポイントは送信出力やアンテナの向きを調整できるものが多いので,修正は可能である。しかしながら,アクセス・ポイントが20台を超えるようなサイトでは,このような個別調整も難しい。そうした場合は,無線LANスイッチなどが実装している自動キャリブレーション機能を使うと便利である(図6[拡大表示])。

 自動キャリブレーションとは,アクセス・ポイント同士が電波を送受信し合い,お互いの位置関係や距離を検知し,チャネル設定,送信出力などを自動調整する機能である。実環境で実機がお互いの電波を検出し合うので,机上設計の実環境での補正とも言える。

 自動キャリブレーションの結果,アクセス・ポイントの間隔が狭く,同一セル内にチャネルの数を超えるアクセス・ポイントが検知されたとしよう。この場合は,電波干渉を回避するためチャネルの数を超えたアクセス・ポイントからは電波を送信せず,スタンバイ状態にしておくという機能もある。スタンバイとなったアクセス・ポイントは,電波の状態を監視するRFモニター*4として利用できる。

自動キャリブレーションの落とし穴

 非常に便利な自動キャリブレーションだが,思わぬ落とし穴もある。例えば,アクセス・ポイントが天井裏に設置され,コンクリートの梁があるような場合である(図7[拡大表示])。梁を挟んだアクセス・ポイント同士では,梁に電波が遮断され相互で電波干渉が発生しないと判断し,同一のチャネルを設定する。その結果,フロア面にある無線クライアントでは双方の電波が届いてしまい,電波干渉が発生してしまう。このようにアクセス・ポイントの設置条件や建物の構造によっては,自動キャリブレーションを実施後,ノイズ・レベルや再送状況の確認を行う必要がある。

環境に合わせた設計を目指そう

 ここまで述べた程度のことを理解していれば,大きな失敗をすることなくアクセス・ポイントの設置やチャネルの設定ができる。実環境では,いろいろな要因から電波干渉が発生している。しかし,実際には再送機能などのおかげで問題とはなっていない。無線LANの場合,完璧な設計というのは難しい。環境に合わせた最善の設計を目指せばそれでよいだろう。

 次回は無線LANの暗号化について解説する。