図1 通信の秘密は三つに分類できる(イラスト:なかがわ みさこ)
図1 通信の秘密は三つに分類できる(イラスト:なかがわ みさこ)
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図2 通信の秘密の侵害が認められるケースがある(イラスト:なかがわ みさこ)
図2 通信の秘密の侵害が認められるケースがある(イラスト:なかがわ みさこ)
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 通信の秘密とは,日本国憲法や電気通信事業法で「侵してはならないもの」として守られているものである。しかし,その実体はなかなかわかりにくい。通信事業の監督官庁である総務省によれば,「通信の秘密」は大きく三つに分かれるという。

 AさんがBさんに電話をかけた場合を例に「通信の秘密」を見ていこう(図1)。

 一つは,そもそもAさんからBさんへ電話をかけたという「通信の有無」そのものだ。二つめは,AさんとBさんがどのような会話をしたかという「通信の内容」。さらに三つめとして,電話をかけたユーザー,かけられたユーザー,電話をかけた時刻などの「通信の構成要素」も通信の秘密に該当する。

 こうした通信の秘密を守らなければならないのは,通信事業者に限った話ではない。第三者が通信内容を盗聴したりしても,法律に違反することになる。

 ただし,どんな場合でも必ず通信の秘密が守られているわけではない。通信の秘密が守られないケースは大きく四つある。それは,(1)法的に認められた場合,(2)正当防衛に当たる場合,(3)正当業務を行う上で必要な場合,(4)ユーザーが合意した場合──である(図2)。

 (1)は,組織的な犯罪を対象とした「通信傍受法」(いわゆる盗聴法)などの法律の下,通信内容の傍受が認められるようなケースである。

 (2)の正当防衛に当たる場合も通信の秘密を守る必要がない。例えば,特定のIPアドレスからプロバイダのメール・サーバーをダウンさせる目的で大量のパケットが送りつけられているような場合,送信元のIPアドレスを調べ,該当するアドレスからのパケットを遮断してサーバーを守るといったことが認められている。

 (3)の通信事業者が正当業務を行うために情報を必要とするケースでも,通信の秘密に該当する情報を参照することが許される。正当業務とは,例えば,ユーザーに請求する通話料を計算するようなケースである。従量制で電話料金を徴収するという業務のためには,「通信の構成要素」である通話履歴を調べることが不可欠になるわけだ。

 この正当業務のケースに当てはまれば,Winny(ウィニー)のようなP2Pファイル共有ソフトの通信に制限をかけることも可能だ。P2Pファイル共有ソフトのトラフィックが増えすぎると,ネットワークが混雑して最悪の場合ダウンする可能性がある。そこで,P2Pファイル共有ソフトのトラフィックを識別して抑制するわけだ。パケットを解析してトラフィックを識別することは通信の秘密の侵害に当たるが,「支障なく通信を提供する」という正当業務のためなので許されるのである。

 (4)のユーザーが合意した場合も,通信事業者は通信の秘密を守らなくてもよいことになっている。スパム・メールおよびURLのフィルタリング・サービスなどは,プロバイダが通信の中身を確認してフィルタリングを実行するが,ユーザーの合意があるので問題はない。