企業の経営戦略をリードする戦略コンサルタント。多くの情報の中から本当に重要なことを見極め,ときには物事を100年単位の大きな視点で捉えてみる。その仕事の進め方や思考法に学ぶべき点は多い。SEから戦略コンサルタントへの転身を果たした筆者が,自分の経験を踏まえ,問題の本質を捉え,3倍のスピードで仕事をこなすコツを伝授する。

 読者の中には,ITエンジニアとしてのキャリアのゴールをコンサルタントと考えている人も多いのではないだろうか。

 しかし,プログラマやSEとコンサルタントとは,ものの考え方や発想法が根本的に違うと言ってよい。そのためSEからコンサルタントへの転身を図るのは,かなりの苦労を伴うものだ。

 今回は,かつて筆者が日本IBMのSEから戦略コンサルタントへと転職した経験を踏まえて,コンサルタントの仕事ぶりや思考法を紹介する。コンサルタントへのキャリアアップを目指す際の参考にして欲しい。また,現在の職種のままでスキルを向上させたいという人にも,ふだんの仕事の効率の向上に役立てていただきたい。

なぜ顧客はお金を払うのか

 SEとコンサルタントでは,年齢が同じでも,平均年収は大きく異なる。最近はスーパーSEも登場しているので一概には言えないが,数百万円の差があるのが普通だろう。ITコンサルタントではなく,企業の経営戦略全般についてコンサルティングする戦略コンサルタントになると,年収はさらに高くなる。筆者の経験から言うと,ITコンサルタントの人月単価は500万円程度だが,戦略コンサルタントのそれは600万円を超える。戦略コンサルタントの年収は,SEのおよそ2倍に当たると言ってもいいだろう。


図1 SE,プログラマとコンサルタントの間には能力の境界「E2C Boundary」がある
コンサルタントを目指すならば,E2C(Engineer To Consultant) Boundaryを乗り越えなければならない
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 なぜコンサルタントの年収が高いのか。それは顧客から払ってもらう料金が,大きく違うからである。SEとコンサルタントの能力には境界があり,筆者はそれを「E2C(Engineer To Consultant)Boundary」と呼ぶ。その境界は,「顧客を正しい方向にリードし,それによって十分な対価を支払ってもらえる能力があるかどうか」の違いと定義できる(図1[拡大表示])。

 顧客がお金を払ってでも雇いたくなる何らかの専門領域を持った人材を「プロフェッショナル」と言う。IT業界で顧客がプロフェッショナルにお金を支払うケースは次の3つである。

(1)自分が思いつかない重要なことを教えてくれる。
(2)自分では思いついても,能力的に困難なことを実行してくれる。
(3)自分でも知っているし能力的にも実行可能だが,コスト的に見合わないことを代行してくれる。

 誤解を恐れずに言えば,(1)が主にコンサルタントの仕事,(2)がシステム開発に携わるSEの仕事,(3)が運用保守やアウトソーシングに携わるSEの仕事となる。人月単価で計算するこの業界の悪癖を肯定するわけではないが,この場では理解しやすいように人月単価の相場観で比較すると,(1)=300~600,(2)=120~250,(3)=100~150(万円/人月)といった数字であろうか(これも今となってはかなり楽観的な数字だが)。運用保守・アウトソーシングSE,システム開発SE,コンサルタントの順に人月単価が高くなる。


図2 顧客が支払うコストと人月単価の関係
顧客はコンサルタントを雇って,下流工程のリスク,コストの発生を防ぐ。コンサルタントの仕事は,担当者の人月単価が高いが,結果的に顧客が支払うコスト全体は低い
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 しかし,顧客が支払うコスト全体で見れば,全く逆の順序となる。システムにかかる費用を累積すると,(3)=数十億円,(2)=数億円,(1)=数千万円,という具合だ。つまり,顧客としては,多少単価が高くともコンサルタントを雇って下流工程のリスクを低減するほうが得策なのである(図2[拡大表示])。

 そのためには上流工程がしっかりとしていなければいけない。上流工程がいいかげんだとプロジェクト後半で後戻りが発生し,全体として大失敗になることは今や常識となっている。そこにコンサルタントの需要が発生するというわけだ。

 このようにコンサルタントはSEよりもさらに上流工程に携わる。プロジェクトも小さく10名程度のチームが多く,大規模プロジェクトのプロジェクト・マネジメント能力が求められることはない。ただし,単価が高いだけに顧客からのプレッシャーは非常に強く,その期待に十分に応えるだけの能力が要求される。