I(Issue),S(Solution),O(Operation)をどのように検討し,決めていけばいいのか。人数が多すぎると議論にならないので,メンバーの数は4~7人くらいが妥当だ。メンバーが揃ったら,その中の1人を「アンカー(最終責任者)」とする。
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ユーザー企業の情報を集める
では,I,S,Oをどのように検討し,決めていけばいいのか。筆者らが実際に行っている作業の流れを以下で示す。
まず,案件について知見のある人を集める。提案書の作成時には自社の精鋭を集め,知恵を結集して作り上げる必要がある。もちろん問題を的確かつ効率的に整理・分析でき,その解決策に対して議論できる人はそう多くはない。また,そのような人は例外なく多忙であり,協力してもらうには組織の壁が邪魔する場合もある。だが,あえてそれをやらなければコンペで競合他社に勝つことはできない。
この時,人数が多すぎると議論にならないので,メンバーの数は4~7人くらいが妥当だ。メンバーが揃ったら,その中の1人を「アンカー(最終責任者)」とする。
筆者らは通常,提案書作成ミーティングを2回実施している。
1回目のミーティングでは,メンバー各自が事前に整理・分析しておいた,RFPやユーザー企業および案件に関する情報を持ち寄り,それに基づいて提案の方針や方向性,自社が提供すべきソリューション内容などを検討する。会議終了後,アンカーはそれらの結果に基づいて1枚のA4判用紙にまとめ上げる(このシートを「ISOシート」と呼ぶ)。
2回目の会議を終えたら,アンカーは最終的なISOシートを書き上げ,それをメンバーに配布して確認を取る。それを土台に提案書を「章」に分け,それぞれの章ごとの担当者を決め,内容を作成する。
各自から担当分の提案書が上がってきたら,アンカーは章ごとに表記や体裁にバラツキがないかをチェックし,それらを修正し,最終的な提案書とする。
会議では「ISOシート」を活用
提案書作成ミーティングを上手く進めるポイントは,いかに「ISOシート」を活用するかにある。
図6にISOシートの使用例を示した。記述はこの程度の分量で十分だ。もちろん,大規模なプロジェクトではこれよりも多くのことを書く必要があるだろう。だが,ISOシートの目的は,あくまでもプロジェクトメンバーが議論し,合意すべき「ストーリー」の叩き台を作成することである。
提案書作成ミーティングではI,S,O以外に,「ユーザー企業の中長期ゴールまたはシンボリック・アウトプット」と,「Why with 当社」についても議論する。提案の競争力を高めるために,ぜひこれらの点を掘り下げて,メンバーの意識を統一させておくべきだ。
「ユーザー企業の中長期ゴール」とは,このプロジェクトを実現すると「要するにユーザー企業は何が嬉しいのか」ということである。例えば,コスト削減や売上増大など,数値化できる明確な導入効果の指標があれば,それを提案書に盛り込めばよい。
プロジェクトの中にはゴールが必ずしも定量的でないものもある。その場合には,「シンボリック・アウトプット」は何かを考える。シンボリック・アウトプットとは,「会社のイメージが向上する」,「業界での地位が上がる」といったプロジェクトを実施することで,会社や部門,従業員,株主などが得られる成果のことである。
一方,「Why with 当社」は,「なぜこのプロジェクトを当社に依頼する必要があるのか」を示すものである。ここで注意したいのは,単なる会社紹介ではないということだ。
導入実績や売上高などを示して会社を紹介しても,ユーザー企業にとってはあまりインパクトがない。ユーザー企業が知りたいのは,「本当にこの会社とやっていけるのか」,「競合他社に比べて,なぜこの会社なのか」ということである。その意味で「Why with 当社」は提案のたびに毎回内容が異なってしかるべきだ。
「ユーザー企業の中長期ゴールまたはシンボリック・アウトプット」と,「Why with 当社」については,提案書に具体的に盛り込む場合もあれば,「提案の方針」を決定するための拠り所とするだけで提案書には記述しない場合もある。いずれにせよ,提案活動の戦略を立てるうえでは欠かせない材料だ。
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図6●提案書作成の際に用いる I・S・Oシートの例 NRIでは「提案書作成ミーティング」で「I・S・Oシート」を使い,提案書の内容を徹底的に議論する。この例では,ユーザー企業が「納期厳守」を最優先していたため,「Operation」としてはスケジュールについて重点的に議論した [画像のクリックで拡大表示] |