ガートナー ジャパン 亦賀 忠明 氏 亦賀 忠明 氏

ガートナー ジャパン リサーチ部門
エンタープライズ・インフラストラクチャ担当
バイス・プレジデント
インフラ市場全般について、ベンダー戦略、ユーザーIT戦略などに関する様々な提言・アドバイスを行っている。

 IT市場は根本から急速に変化しつつある――。と言っても、まだ、あまりピンと来ない人が大半だろう。筆者は、2004年にポストオープン時代に入ったと指摘したが、最近、その流れが加速しつつあると考えている。ポストオープンとは端的に「これまでのような単純なオープンの時代は終焉した」ということである。

 例えばこのところ、Web2.0や内部統制の議論が盛んだが、これらを単なる流行と捉えるのは適切ではない。Web2.0の議論では上位における新たなユーザー視点が、内部統制の議論では経営の視点がそれぞれ必須である。すなわち、これらはオープンの時代の「デファクト製品の選択」を中心とする議論とは、視点も視野もアプローチも異なり、新たな価値の追求の時代に入ったことを意味している。

 このことは、6月に米国で行われたHPのITアナリスト向けの戦略カンファレンスでも改めて感じたことだ。このカンファレンスでは、HPは終始、製品ではなく、同社のビジネスの考え方と方向性を語った。日本でHPといえば、UNIXサーバーやプリンターの企業と捉えられることが多いが、彼ら自身は新たな時代に適したITのリーディングカンパニーとなりたいと言い始めている。

 すなわち、HPは製品の選択肢としての企業から、「企業ITをビジネスの観点で最適化できる企業」への転換を図ろうとしている。実はこうした傾向はHPに限らない。マイクロソフトもインフラストラクチャという包括的なアプローチで製品開発を進めている。インテルもプロセッサからプラットフォームの企業へ、オラクルもデータベースから総合エンタープライズアプリケーションのベンダーへ、それぞれ変わろうとしている。すべてのオープンベンダーが、単純な製品軸から包括的なアプローチへと、自社の製品・マーケティング戦略の舵を切りつつある。

 では、なぜオープンベンダーは変化しようとしているのか。一つは新たな収益を求めて、である。もう一つは、それがユーザーのメリットにつながると信じているためである。前者は企業であれば当然だろう。しかし後者は、まだ日本では理解しにくいことのようだ。米国ベンダーが、ITをビジネス論として語るようになって久しいが、これは、「ITをもっと単純化してほしい」というユーザーの声に応えたものである。

 こうした動きについて、日本では「どうせベンダーの新たな儲け話だろう」と見る向きもある。しかし、考えてみると、そもそもITとはビジネスに役に立って初めて意味があり、その最適化についての答えを出すのは、ベンダーの役目である。自然な話であり、ベンダーが「単純化」を戦略に据えること自体、決して揶揄されるべき事柄でもない。

 考えるべき問題は、ベンダーの儲けではなく、ユーザーの儲けなのである。ユーザーがどうやったら儲けられるか、すなわちビジネスの成長を実現できるか。ここ数年、米国ベンダーはこの答えを自問自答している。そうでない場合は、市場から退場させられるという強い危機感がある。日本ではこうした認識はほとんどないようであるが、少なくとも、ビジネス、テクノロジー双方において、そのあり方と進め方が根本的に問われている時代に入ったことは認識しておく必要があるだろう。