図5 ファシリテータの仕事の2つのステップ<BR>ファシリテータは単に会議を進行させるだけの役割ではない。会議を活性化させ,決定事項をきちんと実行させることが大きな仕事である。会議開始時や議題検討時にファシリテータが具体的に行うことを示した
図5 ファシリテータの仕事の2つのステップ<BR>ファシリテータは単に会議を進行させるだけの役割ではない。会議を活性化させ,決定事項をきちんと実行させることが大きな仕事である。会議開始時や議題検討時にファシリテータが具体的に行うことを示した
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 会議当日へ進め方においてまず重要なのは開始時刻を厳守することだ。そのためにスーパーバイザは会議前日,あるいは1時間前など,適当と思える時間に参加者への周知を行う。5分前に来ない人は呼び出すなど徹底的に監督する。時間通りに来た人を遅れる人のために待たせるようなことは,あってはならない。

 一方,実際に会議を進めるために,「ファシリテータ」役を任命する。ファシリテータはいわば司会役だが,(4)会議を活性化させ意義のある結論を導き出す,(5)決定事項を実行するための仕組みを作る,という2つの重要なステップを担う(図5[拡大表示])。

 会議を生産的な話し合いの場にするには,参加者の自発的な発言を喚起することが不可欠だ。それを行うのがファシリテータである。多くの会議に見られるように役職が最上位の者が,無条件にファシリテータ役を担うのは薦められない。

 むしろ「会議で明確な決着をつけないと,お尻に火がつく」人,すなわち議題の当事者が適任だ。「自分が当事者としてかかわり責任を持つ課題や問題について,自分の責任で会議を喚起促進し,課題・問題が完了するまで責任を持って対処する」のがファシリテータだからである。当然,ファシリテータは準備段階で決めておく。すると課題・問題の当事者として準備を進めるので,当日の会議の進行はスムーズに進む。

参加者を議論に集中させる

 会議の場において,ファシリテータはまず会議の目的を全員に提示し,意図する結果を皆で確認する。準備段階で目的を周知していても,議論の脱線を防ぐために目的,ゴールを改めて示し,そのための協議をすることを確認する。

 次に「完了時間を厳守すること」と「満足のいく結果が出るまで会議が何度でも開かれること」を宣言し,参加者に無駄話をさせない環境を作る。例えば開始40分後までに決定事項の選択肢が絞れない場合は,次回の日程を決めて,会議を終わらせるとあらかじめ伝えるのだ。

 そして選択肢の絞り込み案とその裏づけデータや資料を用意するといった宿題を出すことも伝える。そうすることで参加者たちは要領を得た発言を心がけるようになる。人間の集中力が持続するのはせいぜい1時間30分と言われる。その意味で終わりを明確にするのは重要である。

 とはいえ本当に次回持ち越しになってしまうと,あまり生産的ではない。そこで会議の時間を管理し,参加者に知らせるタイムキーパーを置く。タイムキーパーは,会議中に定期的に時間の告知を行ない,刻々と時間が経過していることを全員に意識させる。参加者が残り時間が減っていることを知ることで集中力が高まる効果もある。

 タイムキーパーと,会議の内容を記録し議事録を作成する記録担当者は,会議開始時に選定しておく。自薦者がいればその人に,いなければファシリテータが指名して依頼する。プロジェクトメンバー全員の会議に対する意識を高めるために,会議に積極的に参加しようとしない人や会議への遅刻が多い人,人の話を聞かないなどの問題を持つ人に,こうした役割を担ってもらうのも一案だ。

「沈黙」の伝染を防ぐ

 会議の途中,ファシリテータは参加者の発言や議論をコントロールし,会議を活性化させる(図5)。具体的には全員が「ストレートに何でも話せる」状態を作り出し,沈黙している人には発言を促す。感情的な発言に対しては裏づけや根拠を求め,できるだけ建設的な議論が行われるように導く。

 参加者たちにストレートに意見を出してもらうため,会議の開始時には参加者全員に「会議の場で言う必要があることは全て言う」と確約させることが必要だ。

 それでもなお,本当の考えをその場で言わずに,後から他の場所で会議の内容についてあれこれ言う人は多い。残念ながらこうした噂話をするのも人間の習性である。噂話をしない,させない仕組みを作らないと人は必ず噂話をする。そこで会議の後で噂話をしないことを参加者全員に約束させ,さらには約束を破った人は徹底的に糾弾されることもあると,強く訴える。どうしても会議の場で発言しなくてはという雰囲気を半ば強制的に作るのだ。

 参加者を沈黙させないことも,ファシリテータの大きな仕事である。黙る時,人は「責任を取りたくない,関わりたくない」といった意思表示をしている。会議の雰囲気は,沈黙する人に支配されてしまう傾向がある。沈黙する人が多いと,言いたいことがある人もますます言えない状態に陥るものだ。それを避けるためにも,参加者を沈黙させないようにリードする必要がある。

 そのためにファシリテータは最初の段階で「黙ったまま意思表示をしない場合は,協議,決定事項を了承したと見なす」というルールで進めることを参加者に伝える。会議中に沈黙している人には了承と見なして良いか承認を求め,了承しない人には代替案や了承しない根拠を言うよう依頼する。場合によっては「黙っているので了承と見なします」と議事を進める。これを独裁的と見る人もいるだろうが,こうした人を容認していては,決して会議を生産的な場にできない。

 また役職者やベテランの発言が多くなりすぎないようにすることも大切だ。ベテランによる「経験上,こんな問題があった」,「私はこう思う」といった発言にはそれなりの重みがある。しかしファシリテータはそれに臆することなく,理論的な根拠や証拠を見せるよう求めなくてはならない。決して簡単なことではないが,若手による自由闊達な発言を促す意味で,これは非常に重要である。ファシリテータが慣れていないと思われる時は,周りの者が助け船を出すようなことも必要だろう。

孤立無援の実行責任者を救え

 会議の決定事項を実行させる仕組みを決めるのもファシリテータの仕事である。すなわち,全員で協力して決定事項を実行できるよう,参加者に様々な役割を割り振る。

 冒頭でも述べたように,会議では「言いだしっぺが損をする」と考えている人は多い。まわりが押し黙っている中で一人だけ建設的な発言したために,「孤立無援」の状態ですべての責任を負わされたという経験を持つ人は少なくないだろう。

 そうした事態を防ぐために,決定事項を実行する人(実行責任者)だけではなく,支援者や支援方法などを定め,特定の人に大きな負担がかからないようにすることが重要である。また実行プランを練る際は,「この方法ならいつまでに実行できる」という,現実的なプラン(カウンター・オファー)を導き出すようにする。

 決定事項の実行に必要な役割は,実行責任者と支援者だけではない。人間は,会議で何かを決めた直後はやる気になっていても,時間が経つとつい忘れ,後回しにしてしまう傾向がある。その習性に陥らないように「確かに実行したか,実行していない場合いつ実行するか?」をチェックする人を「チェックマン」として会議の場で任命する。

 同時に,実行責任者の作業が妥協や自己満足に陥らないよう,作業内容の最終確認者を任命しておくべきだ。作業の内容をチェックする人がいないと,実行責任者は「これぐらいで十分」と安易に満足しがちである。それを第三者の目で,目的や意図したことと合致しているか,課題,問題を解消するための作業になっているかを検証する。

 こう書くと「そこまでする必要があるのか」と思われるかも知れない。当然の疑問だが,会議で決めたことを確実に実行すれば会議の重要性が高まる。それにより参加者の会議に対する姿勢を変革する効果があるのである。

次の会議につなげる締めくくり

 一方,会議中,ファシリテータはスピーディに話を進めるべきだ。だらだらとした議論は参加者の集中力を奪うからである。スピードが速すぎると,参加者が質問や提案のタイミングを逃すことも起こり得るが,この問題はある議題の締めくくりなどのタイミングで,「ここまでのところで何か言いたいことや質問は無いか?」と参加者に聞くことで回避できる。

 参加者からの質問や提案は,ファシリテータが気づいていないことや具体化させていないことを明らかにしてくれる。また決定事項を行動に移すための実行プランを皆で検討するための大切な材料でもある。

 そして会議の最後には参加者の協力に感謝し,会議の終了を宣言することも忘れてはならない。終了が明確でない会議は,下手をすると達成感よりも徒労感を生み出してしまう。全員の協力で満足のいく結果や,具体的な実行プランを導き出せたことに感謝を述べ,完了を宣言する。これは次の会議への積極的な参加を促すためにも有効である。


杉江 典昭(すぎえ のりあき)/ビス コーポレーション 代表取締役
米国のコンサルティング会社WEI&Aでの10年間の経験を基にHTT(Human Transformation Technology)を独自に開発し,97年ビス コーポレーション設立。ITベンダーを中心に人材教育を手掛けている。

次回に続く