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 FMCやインターネット着信転送によって,電話は一層便利なツールになっていく。ただ同時に,電話番号が本来持っている役割が崩れようとしている。

 そもそも電話番号には,さまざまな役割がある。電話網から見れば,呼び出す相手を識別するための情報に違いないが,ユーザーにとっては他の意味も含まれている。03をはじめとする0AB~J番号であれば,固定電話であることや,相手の居住地域が分かる。090であれば携帯電話,050ならIP電話といった具合にサービスの種類を識別できるし,0AB~JやIP電話の050は,一定以上の音質が確保されていることが前提になっている。また,それぞれの番号の違いは通話料が高くなるか安くなるかの目安になる。

 しかし,インターネット着信転送サービスでは,実際に通話が始まってからは相手が利用しているサービスが固定電話なのか,携帯電話なのか,インターネット電話なのかがハッキリとは分からなくなる。0AB~Jや050番号が担ってきた,サービスや通話品質を識別する役割は,実質的に失われるのだ。FMCでも同じ事が言える。

相手がどこで着信するか分からない

 インターネット着信転送サービスの代表例は,スカイプ・テクノロジーズの「SkypeIn」である。従来,専用ソフトをインストールしたパソコン同士でしか通話できなかったインターネット電話は,着信転送サービスにより,一般加入電話からの通話を受けられるようになった。例えばSkypeInの場合,一般加入電話から050番号あてに電話をかけると,フュージョン・コミュニケーションズのIP電話網を介して着信転送ゲートウエイに着信()。着信した電話番号に対応するSkype IDのユーザーに呼を転送する。転送前には発信者に対して,インターネット経由で転送する旨のガイダンスを流す。これにより,インターネットに接続できれば,どこでもSkypeで着信できる。

 こうしたサービスの登場を受けて,総務省の番号研究会ではインターネット電話への転送に関する条件が議論されるようになった(関連記事)。GoogleやMSN,Yahooなど今後も同様なサービスの登場が予想されるからだ。

 着信転送サービス自体は,NTT東日本/西日本が提供する「ボイスワープ」のように従来からある。しかし,インターネットを経由することで,従来の着信転送サービス以上に音質が悪くなる可能性がある。番号研究会は,こうした状況を懸念してガイダンスの挿入というサービス提供条件を設けた。「いったん呼を着信させた上で,インターネット経由で転送する旨をガイダンスで告知すればインターネット電話への転送も構わない」とする指針をまとめた。これは,SkypeInの仕組みと同じ。発信者に対してインターネット経由での転送だと認識させ,音質が悪くても発信者が納得できるようにすることが目的である。

「着信転送の提供条件は義務ではない」

 しかし実際には,事業者の多くはガイダンスを流していない。発信者に毎回ガイダンスを聞かせるのはユーザーにとって不便,事業者側の実装が難しいなどの理由からだ。

 ガイダンスを流す方法は主に2通りある。一つは,ゲートウエイでいったん着信し,通話の一部としてガイダンスを流す方法。もう一つは,着信させないままゲートウエイからガイダンスを流す方法である。前者の場合,着信転送ゲートウエイで一度呼を成立させてしまうので,着信転送サービスのユーザーが電話に出なくても,電話をかけたユーザーにガイダンスを流した分だけ課金されるケースが出てくる(図の問題1)。

 後者の方法なら,このような問題は起こらない。しかし,この仕組みを実現するには,着信転送サービスに接続する通信事業者(図ではIP電話事業者)の網内設備と,着信転送ゲートウエイを連携させる必要がある。フュージョン・コミュニケーションズはスカイプ・テクノロジーズと共同でこの仕組みを実現したが,他の着信転送サービスに対しても網内設備を積極的に公開するとは限らない。もちろん,ゲートウエイを開発するコストも,着信転送サービス事業者にとっては重荷になる。

 このため,着信転送サービス事業者からは,「法的な義務がないなら,ガイダンスを挿入するつもりはない」といった声が出ている。これに対して総務省は,当面はインターネット着信転送に関して規制を設ける予定はない。あくまでもガイドラインの位置付けにとどめている。

 番号研究会が打ち出した着信転送の提供条件には,ほかにもグレーな点がある。ガイダンスを流す対象が,着信転送サービスのユーザーに電話をかける発信者に限られることだ。着信転送のユーザーが発信する場合の決まりはなく,相手には発信者がインターネット電話からかけているかどうかは分からない(図の問題2