総務省総合通信基盤局
電気通信技術システム課番号企画室
吉田宏平課長補佐(取材時の担当者。8月1日付で異動した)
  総務省総合通信基盤局
電気通信技術システム課番号企画室
吉田宏平課長補佐

(取材時の担当者。8月1日付で異動した)
 総務省は,FMC用の番号として新たに「060」を割り当てると同時に,050や090など既存の番号の利用も認めた。結果として,同種のサービスにさまざまな番号を割り当てることになるばかりか,060を利用する事業者がいないという不思議な状況に陥りつつある。さらに,インターネット電話への着信転送を認めたことで,混乱の度合いは増し,電話番号の役割さえ失われようとしている。総務省総合通信基盤局電気通信技術システム課番号企画室の吉田宏平課長補佐(写真,取材時の担当者。8月1日付で異動した)に,060番号を割り当てた狙いや,インターネット電話への転送を認めた理由を聞いた。

FMC用の番号として060を新たに割り当てた理由は何か。

 携帯電話や固定電話以外の事業者が,独自にインフラを調達してFMCサービスに参入する可能性がある。理屈の上では,FMCは必ずしもワンナンバーのようなサービスとは限らず,いろいろな形態があり得る。そのための新番号だ。事業者間の公平性を考えると,その可能性を排除するわけにはいかない。

 実際,旧二種事業者で構成するテレコムサービス協会からは,新規番号に対する強い要望があった。具体的な事業計画があるかどうかは分からないが,少なくとも現時点では,潜在的なニーズを考慮して,固定や携帯といった設備にとらわれないFMC番号を用意しておく必要があると判断した。

事業者間の公平性の確保という点では,既存の番号(050/070/080/090)の利用を認めない方法もあるが。

 確かにFMC番号を060に限定すれば全事業者が公平になる。しかし,その場合は既存の番号を利用したいユーザーの利便性が著しく損なわれる。携帯電話事業者を中心に既存の番号を使いたいとする声は多い。結局,新規番号と既存番号の併用が適当という結論に至った。

とはいえ,0AB~JはFMC番号としての利用を認めなかった。

 0AB~Jには,地理情報や通話品質,料金の識別などの役割がある。居住地域が分かることから社会的信用を裏付ける情報としても使われる場合があるし,緊急通報には番号から居住地域を判別する仕組みが不可欠だ。FMC番号としての利用を認めてしまうと,0AB~Jのこれらの役割が崩れてしまう。例えば「03」は相手が東京23区などにいると特定できるが,携帯電話で着信してしまうと相手の場所は分からない。品質に関しても,電波の受信状況が良くなければ音質が悪くなる。

 確かに,NTT東日本/西日本が言うように0AB~J番号を利用したFMCサービスのニーズはあるかもしれない。しかし少なくとも現時点では,社会的信用情報や緊急通報用といった0AB~Jの役割を尊重すべき。これまで0AB~Jが持っていた役割を勝手に切り捨てるわけにはいかない。

 ただ,今後もずっとFMCでの0AB~J利用を認めないと決めたわけではない。光ファイバの普及が進み,0AB~J番号を利用したIP電話が一般的になれば,状況が変わる可能性はある。現在,東西NTTが構築を進めている次世代ネットワーク「NGN」(next generation network)も視野に入れており,どこかでは今の番号体系を見直さなければならなくなると考えている。

番号研究会の最終報告書では,FMC番号の決定と併せて,インターネット電話への着信転送の条件も固めた。電話番号の役割という点では,これも影響は無視できないと思うが。

 SkypeInの着信転送と同様のサービスは今後増えることが予想される。このため番号研究会でも議論された。結論としては,着信転送ゲートウエイで「呼がいったん途切れている」と考えることで,着信までの通信を対象に番号の利用を認めた。最終報告書に,これまでと違う見解を盛り込んだわけではない。

 もちろん,単にインターネット電話に転送すれば,050番号や0AB~J番号にかけているのに品質が悪いなど,発信者を困惑させる可能性がある。だから,発信者が納得できるように,ガイダンスでその旨を伝えるという条件を設けた。

「法的な義務がないのであれば,ガイダンスは流さない」という声も一部の事業者から出ている。

 インターネット電話への転送条件はガイドラインの位置付けになる。法的に義務付けるかどうかはともかく,総務省としては「守ってください」という立場になる。しばらく状況を見た上であまりにも守られていない,あるいは何か問題が起こった場合は法的な規制を検討していきたい。