060という新しい電話番号を割り当てることになったFMC(fixed mobile convergence)とは,文字通り,固定通信と携帯通信を融合したサービスである。一つの電話番号で,シチュエーションに合わせて携帯電話と固定電話を使い分けられる。これが今後の電話サービスの姿だ。

 代表的なサービスに,英BTの「BT Fusion」と,韓国KTの「OnePhone」がある。BT Fusionの場合,ユーザーは1台の端末を自宅ではBluetoothを介したコードレスフォン,外出先では携帯電話として利用できる。通信事業者の網側で常にユーザーの位置情報を把握し,自宅の場合はブロードバンド回線,外出先の場合は携帯電話網を介して通話する。

日本でもFMCに近いサービスが登場

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 FMCには厳密な定義があるわけではない。固定電話と携帯電話の料金を一括請求するだけのサービスをFMCと呼ぶ場合もある。ただ一般的には,固体と携帯の端末の一体化,固定網と携帯網のシームレスな連携などを実現したサービスを意味することが多い(図1)。実は国内でも既に,いくつかFMCと呼べるサービスが始まっている。

 例えばNTTドコモやKDDIが企業向けに提供している「モバイル・セントレックス」という仕組みは,FMCに極めて近い。NTTドコモの「N900iL」やKDDIの「E02SA」は,通常の携帯電話の機能に加え,無線LANを使った音声通話機能を備えている。社内では無線LANを使った内線電話,社外では携帯電話として利用できる。

 IP電話の拡張サービスでも,一つの番号で複数の通信手段を使い分けられるサービスが登場した。フュージョン・コミュニケーションズが今年4月から提供している「ビジネスFMCソリューション」だ。着信転送や公私分計などの仕組みを活用し,オフィスのIP電話やSkypeなどのソフトフォン,携帯電話による発着信を一つの050番号に集約できる。050番号あての電話を携帯電話に転送すれば,FMCと形態は全く同じだ。

図2 (クリックすると画面を拡大)
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 インターネット着信転送サービスの中にも,FMCを意識したサービスが増えている(図2)。インターネット着信転送は,いわゆるインターネット電話を拡張したサービス。例えば船井電機グループのユーエフネットが提供する「FUNAI G-LEX」はインターネット電話による050番号の発着信に加え,050番号あての通話を固定電話や携帯電話に転送する機能を備える。「名刺に050番号を刷っておき,ユーザーのシチュエーションに応じて着信先を変えられる。外出時は携帯電話,会議中などで電話に出られないときは部署の番号に転送させるといった使い方が可能だ」(事業開発室の服部俊夫室長)。

 プラネックスコミュニケーションズの「CyberGate -Phone-」も,同様の機能を備える。転送先に固定電話や携帯電話を設定し,インターネット電話と同時に呼び出すことが可能。電話がかかってきた場合は,インターネット電話と,転送先に指定した電話機の両方が鳴る。ユーザーは,受話器を先に取った方で通話できる。また,これらのサービスは050だけでなく,0AB~J番号でも利用可能*。実際,リンクやプラネックスコミュニケーションズが03番号を利用したサービスを提供している。

*ただし原則として,0AB~J番号の場合は発信者番号を通知できない。かけ直した際に必ずしもつながるとは限らないほか,0AB~Jの地理識別性が損なわれる恐れがあるとして,番号研究会では発信者番号通知を認めていない。050の場合はこうした問題がないので発信者番号通知が可能である。

 このほか,留守番録音メッセージを電子メールで転送するサービス,固定電話の着信を携帯電話にメールで通知するサービスなども登場しており,携帯電話と固定電話の融合がいたる所で進んでいる。FMCを機に,電話サービスが大きく変わろうとしている。