地震や津波などの災害が発生したときに,テレビ受信機に災害情報を伝える放送を緊急警報放送と呼ぶ。この際に放送に利用する信号を緊急警報信号(EWS:Emergency Warning Signal)と言う。

 アナログ放送の緊急警報信号は,災害発生時に音声信号に特別な信号を割り込ませることで,受信機が自動的に起動し視聴者に緊急情報を知らせる。デジタル放送では,BSデジタルも地上デジタルも同様な機能(緊急警報起動制御信号)を規格として用意している。ただし,自動起動は受信機の必須機能とはなっていない。

 ワンセグサービスは,国民に浸透普及している携帯電話向けサービスであり,常時待機状態となっていることから,本緊急警報放送はとても有効な手段として期待されている。しかし,待機電力が必要となり,省エネルギーの観点から必須機能になっていない。一部のワンセグ対応カーナビには,本緊急警報放送の受信機能が搭載されている。

緊急情報識別子に地域符号を載せて送信

 緊急警報信号は,無線設備規則第9条の3第5号,無線局運用規則第138条,郵政省告示昭60第405号で定められている。緊急警報信号は,第1種開始信号,第2種開始信号と終了信号がある。

[1]第1種開始信号

  • 大規模地震対策特別処置法(昭和53年法律第73号)第9条第1項の規定により警戒宣言が発せられたことを放送する。
  • 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第57条(大規模地震対策特別処置法第20条において準備する場合を含む)の規定により求められた放送を行う。
[2]第2種開始信号
  • 気象業務法(昭和27年法律第 165号)第13条第1項の規定により,津波警報が発せられたことを放送する。
[3]終了信号
  • 第1種および第2種開始信号を放送した後,終了を意味する信号を放送する。


図1 緊急警報信号(EWS)送出と受信の手順 出典:ARIB TR-B14「地上デジタルテレビジョン放送運用規定」第7編7.9節 緊急警報放送の運用
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 地上デジタル放送では,緊急警報信号をPMT(Program Management Table)内の緊急情報記述子に,Start_end_flag,第1種/第2種種別,および地域符号を記述する。さらに伝送制御データであるTMCC(Transmission and Multiplexing Configuration and Control)情報の緊急警報放送用起動フラグを1として設定し,緊急警報放送と認識できるコンテンツとして放送を開始する。

 また終了時には,伝送制御データであるTMCC情報の緊急警報放送用起動フラグを0に設定して送出し,PMTから緊急情報記述子を削除する。放送事業者は,緊急警報放送を行っている間は,固定受信端末向け放送やワンセグ向け放送によらず,常時TMCC情報の緊急警報放送用起動フラグを 1とすることになっている。

 デジタル放送受信機は,以下の手順で緊急警報放送の運用を行うこととなっている(図1)。

  1. TMCCの緊急警報放送用起動フラグを監視し,このフラグが0から1になった後,受信TS(Transport Stream)のPMTにある緊急情報記述子を監視する。

  2. 緊急情報記述子のstart_end_flagが1で,area_codeが受信機に設定されている地域符号に該当していれば,緊急情報記述子に記載されているサービス(Service_ID,チャンネル番号)を選局し受信する。なお,ワンセグ放送を受信している携帯受信機については,受信機に設定されている地域符号と実際の所在地が異なる場合があるため,aria_codeに関わらず起動動作を行う。

  3. TMCCの緊急警報放送用起動フラグが1の期間PMTの監視を継続する。

  4. TMCCの緊急警報放送用起動フラグが0になった時点もしくは,PMTの緊急情報記述子が削除された時点で緊急警報放送の終了とする。ただし,緊急警報放送が再開される可能性があるため,終了時から最低90秒間は緊急警報放送の受信を継続する必要がある。

参考文献:
ARIB STD-B10 「デジタル放送に使用する番組配列情報標準規格」
ARIB TR-B14 「地上デジタルテレビジョン放送運用規定」