後半は実用書を紹介しよう。現役エンジニアに話を聞き,彼らが普段,実務に役立てている本を集めた。リファレンス代わりにパラパラ見たり,得意分野ではない技術の概要をつかむために便利な本の類である。

 また定番書ではちょっと難しくて,読破しようという意欲がわかなかった人のために,エンジニアや本誌寄稿者が薦める入門書もいくつか紹介しよう。

概念をつかむための入門書

誰も教えてくれなかったシリーズ
『誰も教えてくれなかったXXXのしくみ』
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静岡大学工学部の石原進助教授。
[改訂版]SEのための通信プロトコル
『[改訂版]SEのための通信プロトコル』
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  定番書編で紹介したインターネットやTCP/IPの入門書は分厚く,格調高い本が多い。本当の初心者だとそれだけで敷居の高さを感じてしまうかもしれない。また,やさしく書いてある入門書でも,内容は理系の素養を前提としているものが多く,文系出身者は気後れしてしまう。  

  『誰も教えてくれなかったXXXのしくみ』シリーズはこうした読者に薦められる本である。日経インターネットテクノロジーの連載記事をまとめたものだ。

 多摩大学の井上伸雄教授に言わせると,「文系が書いた技術の本という感じ。技術的な間違いはないし,概念を理解するのに向く」。念のために説明すると,著者の熊谷誠治氏はバリバリのエンジニアで,企業ネットワークの運営や構築に関する著作や講演をこなす有名人である。

 内容は具体的な事例を使って説明しているので読みやすい。静岡大学の石原進助教授も「インターネットやセキュリティの背景にある技術や考え方が自然にわかる」と評価している。

 もう一冊読みやすい本を紹介しておこう。『[改訂版]SEのための通信プロトコル』だ。タイトル通り,システム・エンジニアが最低限知っておくべき通信プロトコルの基礎をコンパクトにまとめた本である。わずか237ページに通信の基本から,TCP/IP,ISDN,フレームリレー,ATMの概要が収録されている。

 TCP/IPが仕事の中心である技術者はフレームリレーやATMの知識は不要と思うかもしれないが,少し縁遠い技術でも基礎的な知識くらいは持っていた方がよい。本書はそういう動機の学習にも向いている。TCP/IPに関しても同じくらい簡単にまとめてあるので,知識の確認になるだろう。これくらいの分量なら,さほど気負わずに読み始められるというのも本書の良いところである。


イーサネット技術を学ぶ

 次はイーサネットに関連した本を紹介しよう。『ポイント図解式 標準LAN教科書 改訂三版(上)(下)』はイーサネットを中心にLANに関連する技術をまとめた入門書である。図版を多用し,わかりやすくまとめている。ネットワーク機器ベンダーのアライドテレシスでは「多くのエンジニアがこの本を机に置いている」(マーケティング本部の中野正次長)という。

 個々の技術について比較的詳しく書かれている。中野氏によると,同社のエンジニアは同書をちょっとした疑問を確認するリファレンス代わりに使っているそうだ。

ポイント図解式 標準LAN教科書 改訂三版(上)(下)
『ポイント図解式 標準LAN教科書 改訂三版(上)(下)』
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詳説イーサネット
『詳説イーサネット』
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 イーサネット技術そのものを学ぶという観点からは,まず『詳説イーサネット』を推薦しておきたい。

 本書はイーサネットの第一人者として知られるスパージェンによる解説書。10Mイーサネットからギガビットまで,現在使えるイーサネット技術を包括的に解説している。イーサネットの歴史から始まり,構成要素としくみ,10BASE-Tと100BASE-TXの違いなどを論じ,最後にトラブル・シューティングまでを記述している。とりあえず一通りの技術が学べる。一冊だけというなら,これを選ぶのがよいだろう。


イーサネットを目的別に知る

 イーサネットの基本概念をきっちり学びたいなら,『ローカルエリアネットワーク―イーサネット概説』がお薦めだ。この本の初版は1989年と古い。「イーサネットは,IEEEの規格書とこの本で勉強した」(アンリツの岩崎有平氏)というように,ベテラン・エンジニアには懐かしい本でもある。

ローカルエリアネットワーク―イーサネット概説
『ローカルエリアネットワーク―イーサネット概説』
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高速Ethernetの理論と実装
『高速Ethernetの理論と実装』
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多摩大学大学院の井上伸雄教授。

 当然ながら最新技術は載っていない。その代わりに新しい本では割愛されがちなイーサネットの基本解説に分量が割かれている。イーサネットのキモといえるCSMA/CDの動作などをしっかりと説明している。「新しい本はどうしても新技術に目が向いている。基本を学ぶなら,案外古い本の方が役に立つ」(多摩大学の井上教授)のである。

 『高速Ethernetの理論と実装』は同じイーサネットを扱う前述の2冊に比べると,より実践的な内容になっている。歴史や理論の解説もあるが,むしろLANを増強するときに必要な帯域の算出方法や,敷設するために必要なLAN機器の具体的な解説,選定法といった点に力点が置かれている。高速LANの敷設計画を立てるためのサブ・テキストといった内容である。

LANケーブリング ベーシックマニュアル
『LANケーブリング ベーシックマニュアル』
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 LANの敷設という点では,『LANケーブリング ベーシックマニュアル』も見逃せない。銅線,光ファイバを問わず,ケーブルやコネクタ技術にフォーカスを当てたユニークな一冊だ。後半はビル内にLANケーブルを敷設するときに使う規格「TIA/EIA-569A」に基づいた設計技術や施工の注意点,敷設したケーブルのテスト方法などを解説している。文字通りLANの敷設設計の基礎が身につく。

 現在手に入るのは1999年に出版された改訂版なので,ギガビット・イーサネット関連の記述が物足りないのはちょっと残念だ。しかし,企業LANの管理者など,LANの敷設にかかわるのなら,常備しておきたい本である。