まずは,定番書から紹介しよう。ネットワーク技術は比較的新しいものが多いが,それでも歴史的に評価の定まった「古典」は存在する。多くの読者に支持され,ロングセラーになっている本もいくつかある。いずれも有名な本ばかりで,ベテランの技術者なら一度は名前を耳にしたり,読んだことがある本ばかりである。初心者にはちょっと難解な本が多いが,少なくとも名前くらいは知っておきたい。
「ネットワークとは何か」を学ぶ
![]() 『コンピュータネットワーク 第3版』 [画像のクリックで拡大表示] |
LANやWANを問わず,コンピュータ・ネットワーク技術について基礎から順に解き明かしている。コンピュータ・ネットワークの目的から始まり,ネットワークの応用技術までを扱い,範囲は広い。インターネット関連技術はもちろんだが,電話網やATM技術に関してもきちんと説明している。
第3版はインターネットが普及し始めた1996年に原書が出版された(2003年12月には第4版が出版された)。その前の第2版はOSI参照モデルに従って説明を進めており,OSIを学習する本という側面があった。しかし第3版ではこれを改め,OSIをベースにタネンバウムが現実のネットワーク技術に即して,独自に考えた階層の分類に基づいた構成になっている。インターネット関連技術についても加筆されている。
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早稲田大学理工学部の後藤滋樹教授。黎明期からインターネットに関わる研究者で「岩波講座 インターネット」の編集委員でもある。 |
「とくに通信システムに関する記述が参考になる」と,早稲田大学の後藤滋樹教授は話す。教授によれば,インターネット普及以後にネットワーク技術を学んだ技術者は,古典的な電話技術などをきちんと習得していない。しかし電話技術は100年の歴史を持ち,その間にいろいろな問題を解決してきたノウハウの蓄積がある。「新技術であるインターネットの問題を解決するヒントは,意外とこういう知識から見つかるものだ」(後藤教授)。
インターネットはどう動くか
![]() 『コンピュータネットワークとインターネット 基礎から応用までの技術入門』 [画像のクリックで拡大表示] |
一方,『コンピュータネットワークとインターネット 基礎から応用までの技術入門』はタネンバウムの本とは異なり,インターネットの技術に絞っている。ケーブルや通信技術の基礎から話は始まり,Webブラウザや電子メールの動作までを,具体例を交えながら解説する。ネットワーク・セキュリティの基礎といった内容までをカバーしている。普段,われわれが使っているアプリケーションが登場することも多いので,タネンバウム本よりは取っつきやすい。
元々,著者のカマーが勤務する米パデュー大学での授業に使うために執筆された本で,カマーは「ネットワークにほとんど経験がない,あるいはまったくない大学学部最上級生向けである」と前書きで述べている。その言葉通り,数式などは登場せず,実例を使った説明が続く。記述は平易だが,良くも悪くも教科書的なので,衿を正して学ぶ姿勢が必要だろう。
“早わかり”だが浅くはない
実際のネットワーク技術を一通り学ぶなら,『新・情報通信早わかり講座 (1)~(4)』がお薦めだ。日経コミュニケーションの人気連載を単行本化したもので,いろいろな通信技術をテーマごとに見開き2ページでコンパクトに説明している。
![]() 『新・情報通信早わかり講座 (1)~(4)』 [画像のクリックで拡大表示] |
現在,4巻まで出版されており,1巻が電話網やISDNから企業ネットワークといったWAN寄りの技術,2巻はLANやマルチメディア通信,3巻がインターネット,4巻はモバイルとインターネットの応用技術,といった内容になっている。
通信技術は幅広いので全部を完全に理解するのは困難である。この本は「個別の通信技術をざっと理解するのに使える」(静岡大学工学部の石原進助教授)し,ほしい情報だけを拾い読みするリファレンス的な使い方もできる。テーマあたり2ページなので,一つひとつの技術に関する記述は少ないが,それぞれの著者はその分野の専門家なので,過不足のない内容になっている。
ただ,雑誌掲載時の最新技術を追った解説になっているので,時折古さを感じることもある。とくに第1巻は,93~94年の技術情報を基に書かれており,古さが目につくことがある。