東葛人氏がITpro Watcherで、「ITサービス会社のリスク管理が“提案のコモディティ化”を生んだ」という記事を書いている。東氏によると、ITサービス会社が過去の赤字プロジェクトの失敗に懲りて、どこの会社もリスクを避けて付加価値も差異化のポイントもほとんどない提案ばかりしている。その結果「ITサービス会社の提案は、どれも皆同じ」ということになり、価格だけの勝負になってしまう。身につまされて読んだ人も多いのではなかろうか。

 営業やセールスSEの立場からIT提案の「コモディティ化」の問題を見てみたい。ほとんどのIT営業パーソンやセールスSEは入社以来、「まず最初にお客様にシステムの要求事項を固めてもらうこと」「システム化の対象範囲を明確にしてもらうこと」の大切さをたたきこまれてきたに違いない。

 しかし、最近ではその考え方にあまりに凝り固まってしまって、顧客の心に訴えるIT提案ができないという弊害が出ているようだ。

 大事なことはすべてお客様が決めてくれる。システムへの要求事項を固めるのはお客様の役目。そんなふうに頭から信じこんでしまえば、「お客様が本当に求めていることは何か」に思いをめぐらせることなど無駄ということになりかねない。

 例えば、ユーザー企業が新しいシステムの開発に取り組むとき、複数のITサービス会社にRFP(提案依頼書)を発行することがある。RFPを受け取ったITサービス会社は、これでシステムの要求事項は洗い出されているのだから、後は技術的な面から検討を加えるだけでよいと考えてしまいがちである。


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 しかし、「ユーザー企業も思い悩み、迷いながらRFPを書いていることを忘れてはいけない」と、「90分で学べるIT提案力」の著者の小野泰稔氏は指摘している。

 文書としての体裁は一応整ったものになっていても、RFPを作成した担当者の心の中には「ほんとうにこれで良かったのか」という不安が残っているものである。無理もない。情報システムはますます高度なものになり、RFPの作成担当者がどんなに努力しても、システム化の明確なゴールのイメージなど容易に描けなくなっているのである。

 今では、「まず最初に要求事項を固めてください」といった昔ながらのスタイルのIT営業は通用しなくなってきていると小野氏はいう。IT提案の範囲を自分で勝手に決めず、顧客の立場でとことん考える。そんな提案こそ顧客の心に響く。RFPを受け取った場合でも、例外ではない。RFPを機械的にブレークダウンしただけの提案書にたいした価値は認めてもらえない。企業の課題に思いをめぐらせ、RFPの内容にプラスアルファした提案こそ、顧客がほんとうに求めていることである。

 小野氏が提唱するのは、仮説を立ててそれを検証してゆく提案活動である。仮説検証型のアプローチは決して目新しいものではなく、何度も言われてきたことであり、むしろ提案活動の本流とでもいうべきものだろう。小野氏によると仮説検証型のアプローチの良さは、いくらかの努力によって誰にもでき、成果を出せる点にある。どのITサービス会社にも特別に優秀な営業パーソンがいるものだが、特別な人の真似を誰もができるわけではない。

 どのITサービス会社も似たり寄ったりの提案書を作っている状況だからこそ、顧客の課題をとことん考え抜いた提案書はいっそう輝く。そのために肝心なのは提案活動の本流に戻ること。今までのITセールスのやり方に疑問を感じている人に読んでいただきたい一冊である。