NPOはすっかり市民権を得た。行政機関の支援体制も充実し、多くの自治体がNPO支援室を設ける。さらに最近では、行政とNPOの協働がよく話題になる。方向性は結構だが行政内部で語られるNPOの役割、そして「行政との協働」の内容に関しては疑問がある。

■NPOへの過剰期待と役所の責任放棄

 第1に「公共課題の解決を行政とNPOで分担する」という考え方への疑問がある。 確かに行政ができることには限界がある。NPOは現実にそれを補ってくれる。だが 行政の限界のすべてをNPOが担えるはずのものではないし、そもそも無理な話だ。

 そもそもNPOとは個人の発意による。例えば「プロップステーション」(神戸市)。これは障害児のお母さんだった竹中ナミ氏が障害児にパソコンを使った社会参加の道を広げようと始めた。とても自然で説得力のある設立の経緯だ。NPOは個人が何かにこだわり、活動が始まる。それに意気に感じた人たちが支える。これがNPOの本質である。誤解を恐れずにいえば、やりたい人がやりたいテーマを好きにやる。これがNPOの威力の源泉だ。こうしたNPOが多数生まれれば、社会問題はどんどん解決される。しかし行政主導で特定テーマのNPOを育成するという発想は間違っている。あくまでもやりたい人がやりたいテーマをやるのがNPOである。行政の補助金を前提に行政から指名された理事長が俄仕立てでNPOをつくってもだめだ。

■NPOの外郭団体化--補助金が組織を官僚化する

 第2の懸念は補助金行政に依存する危険性だ。これでNPOが「外郭団体化」する。例えば米国のNPOには、特定の個人、政府、企業からの補助金が20%を超えると危険だという知恵がある。50%を超えると系列化だ。だから財源多角化に腐心する。わが国のNPOにはこうした発想が弱い。それどころか補助金付与が、お上に活動が認められたことの証しと喜ぶ向きすらある。

 そもそも税金を原資とする事業資金は使いづらい。お金の使途を形式的にも内容的にも証明しなければならないからだ。補助金をもらうとその管理に伴う手間とストレスが大きい。本来はこうした制約と無縁のところで自由に仕事をするのがNPOだ。それが補助金をもらうと役所の外郭団体のようになっていく。役所側に悪意があるわけではない。だが補助金は麻薬のように自由闊達な組織を官僚化していく。

■NPOにも政策参画を--役所にはできない政策提言ができるはず

 第3には、NPOの役割が業務委託のみにとどまっていることについての疑問がある。NPOには政策立案への参画を促すべきだ。多くの自治体がNPOに業務委託する。だが福祉関係のお弁当を配るといった比較的軽易な作業が多い。NPOの可能性は本来、それにとどまらない。役所にはできない政策の再評価、あるいは調査・立案といった仕事でも現場感覚が発揮されるはずだ。実作業を通じて役所にはわからない現場の実態や市民生活の問題点がわかる。例えば独居老人への弁当配送を重ねれば独居老人の悩みがわかる。老人福祉行政の課題もわかる。

 筆者の主張に対し多くのNPOは慎重だ。「役所から仕事をもらったのでまずはそれをこなすのが先決」といった考え方をするところが多い。一見、着実な発想なようでいてこうした意識は外郭団体化の始まりでもある。NPOは自由闊達にやりたいことをやる市民団体だ。役所の制度や予算にとらわれず思い切った政策提言をするべきだ。

上山氏写真

上山信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学教授(大学院 政策・メディア研究科)。。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)、ジョージタウン大学研究教授を経て現職。専門は行政経営。行政経営フォーラム代表。『だから、改革は成功する』『新・行財政構造改革工程表』ほか編著書多数。