※ この記事は『日経BPガバメントテクノロジー』第12号(2006年7月1日発行)に「電子自治体『見える化ツール』出そろう」として掲載された記事の一部を再構成したものです。
名波 俊兵(なわ・しゅんぺい)
(株)チェンジ マネージャー
京都大学農学部卒。アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)、監査法人系コンサルティング会社にて一貫して中央省庁・自治体のコンサルティング・調査研究に従事。平成16年度・17年度に情報システム調達モデル研究会の事務局支援(調達ガイドライン部分)を担当した。本年4月からは、情報・通信企業に特化した人材育成サービス、及び経営・ITのコンサルティングを手がける(株)チェンジに参画。
|
ニューメディア開発協会に設置された「情報システム調達モデル研究会」は、自治体のIT事業を可視化するための二つのツールを5月に公表した。「調達ガイドライン」と「IT事業の業績評価とその活用」(以下、PRMガイドブック)である。いずれも、ニューメディア開発協会に申請すると入手できる(ニューメディア開発協会「情報システム調達モデル研究会」)。ぜひとも参考にされたい。
今回公表された「調達ガイドライン」は、2003年度、2004年度の2年間で研究会が取りまとめたガイドラインを、2005年度に3自治体(滋賀県、徳島県、千葉県市川市)で導入して有用性を検証し、改訂を加えたものだ。
「調達ガイドライン」は、IT事業における「マネジメントの可視化」(表1)のうち、「組織体制」および「調達プロセス」の可視化について、整備の方向性を示したものだ。これを参考に各自治体はそれぞれ独自の「調達ガイドライン」を策定する。
■表1 自治体におけるIT事業を可視化するためのツール・取り組み |
マネジメントの可視化 |
責任者 |
責任者の可視化(CIO・CIO補佐官) |
組織体制 |
役割分担の可視化、強化 |
調達プロセス |
調達プロセスの可視化(ライフサイクルとして) |
ITポートフォリオ |
位置付けの可視化 |
業績測定指標 |
目標・結果の可視化 |
リスク管理 |
リスクの可視化 |
仕組み(企画・設計)の可視化 |
EA |
機能の可視化 |
情報の可視化 |
プロセスの可視化 |
インタフェースの可視化 |
メカニズムの可視化 |
開発の可視化 |
WBS |
工程の可視化 |
EVM |
進捗の可視化 |
仕様変更管理 |
変更の可視化 |
バグ管理 |
品質の可視化 |
人材の可視化 |
情報処理技術者試験 |
キーパーソンの可視化 |
ITSS |
チームの可視化 |
|
|
凡例 情報システム調達モデル研究会 報告書との対応
: 調達ガイドラインの該当部分 : PRMガイドブックの該当部分
※ニューメディア開発協会資料を一部加工
|
本ガイドライン導入による効果は、以下の4つを想定している。1.構想企画立案・基本計画策定の枠組みを通じた情報システム最適化に関するコントロールの実現、2.情報システム調達に関する全体像把握による調達の効率化、3.業務・システムに関する関連方針との連携、4.発注者ニーズの明確化である(表2)。
■表2 調達ガイドライン導入による効果 |
構想企画立案・基本計画策定の 枠組みを通じた情報システム最適化に関するコントロールの実現 |
◎自治体の限られた予算の中で、総合的に見てどの事業を取り上げるべきか、事業間で共通化できる要素は存在しないか、存在する場合にはどのように共通化するか等について検討することによって、結果として情報システムの全体最適化につながる
◎そのために、本ガイドラインでは情報システム調達構想企画立案段階から、基本計画策定段階にかけて総合的に検討するプロセスを定義した。この枠組みに基づいて作業を推進することにより情報システムの全体最適が可能になる
|
情報システム調達に関する 全体像把握による調達の効率化 |
◎情報システム調達構想の企画立案・予算手続き・基本計画書策定から、調達実施(設計・開発)、運用・保守に至るフェーズへ作業を進めるに従い、全体として企画された事業目標が具体化し、詳細化される
◎結果として連続する一連の作業として、情報システム調達を効率化する
|
業務・システムに関する 関連方針との連携 |
◎リスクマネジメント、サービスマネジメント、セキュリティマネジメント等のマネジメントにかかわる問題や、業務や情報システムの構造にかかわる問題を、情報システム調達の執行のどの段階でどのように扱うかを明確にすることによって、情報セキュリティポリシー等の関連方針の活用を容易にし、これらの問題に適応した情報システム調達の実施を可能にする
|
発注者ニーズの明確化 |
◎提案依頼書や運用・保守の調達の場合の仕様書等をどのようにまとめ、それをどのように受注者(ベンダー)に提示し、受注者(ベンダー)候補からの提案をどのように評価するかを明確にすることにより、発注者ニーズをより正確に受注者(ベンダー)に伝えることが可能になる
|
|
|
※ニューメディア開発協会資料を一部加工
|
これに、CIOやCIO補佐官(もしくはそれぞれの相当職)の設置といった昨今取り組む自治体が増えてきた「責任者の可視化」を加えた3つがそろうと、「どの役職・部門がどういった権限を持ち、どのようにして情報システムを調達するのか」が明確となり、調達プロセスを通じた適正な情報システム調達が実現する。