検索連動型広告はアクセスログ解析によって広告効果を可視化でき、費用対効果が明確になるといった理由から、現状では企業の販促費がその運用に当てられることが多い。そうなると、当然のことながら検索連動型広告の運用には至上命題としてユーザーの商品購入や会員登録といったコンバージョンの追求や運用の効率化が求められてくる。

 しかし、そこで思うのは、果たして検索連動型広告の存在意義としてブランディング効果は無視できるのか、ということだ。検索連動型広告は潜在意識のあるユーザーに訴求できる、といった大きな魅力を秘めているので、ブランディング効果は決して少なくないと言えるはずだ。例えば、ブランディングのためにビッグキーワードを上位で入札したとする。テキストでの訴求になるため、画像や動画に比べればインパクトは少なくなるかもしれない。しかし、クリックさえされなければいくら広告が表示されても無料であるため、検索結果の一番上に訴求することも可能である。

 また、新たに発売されて、世間に知れわたっていない商品・サービスを、関連するキーワードで出稿することで潜在的に興味を持つであろうユーザーに訴求するといった観点もある。

 実際に最近では、auの新サービス「リスモ」がオーバーチュア「スポンサードサーチ」に出稿しているケースがある(2006年3月29日現在)。この企業の場合は、「Yahoo! JAPAN」などの出稿サイトで「新発売」と検索すると、

auの新サービス「リスモ」
auリッスンモバイルサービス開始!でもリスモって何なの?

 というキャッチーな広告が表示される。

 リンク先は完全なプロモーションサイトで、コンバージョンは存在しない。この広告の目的は明らかにブランディングであり、「リスモ」というサービスを意図しないで検索してきたターゲットユーザーに興味を持たせ、自社サイトへ呼び込もうといった戦略である。

 この他にも、トヨタ自動車の「レクサス」も販売開始時点から検索連動型広告を導入している事例として知られている。もちろん、ウェブ上で高額な自動車がおいそれと売れるはずもないので、この広告もブランディング効果を狙ってのものである。

 こうしたブランディング目的の広告は概して効果が可視化しにくいため、まだまだ一部の企業、特に戦略性に長けた企業のみが行っているのが状況であると言える。しかし、可視化できるものだけが広告効果とは言えないだろう。

 2006年3月にアメリカの調査会社comScore Networks社が発表したデータによれば、実際にユーザーが検索エンジン経由で特定商品の情報に触れた後、オンライン購入ではなくオフラインで購入に至っている例も全体の63%にも及んだそうだ。

 こうした数値は当然のことながら広告効果としては可視化しにくいため、検索連動型広告の成果としては計算されない。しかし、企業が本当に広告効果をベースに広告媒体を選び、効率的な予算配分を行いたいと思うのなら、今後はこうした可視化できないデータにもしっかりと目を配っていく必要があるのではないだろうか。


(アウンコンサルティング コンサルティンググループ 伊藤聡一郎)








 本コラムは、アウンコンサルティングのサイト 「(((SEM-ch))) 検索エンジンマーケティング情報チャンネル」に連載中の「SEM特撰コラム」を再録したものです。同サイトでは、SEOや検索連動型広告など検索エンジンマーケティング(SEM)に関する詳しい情報を掲載しています。