KDDI技術渉外室企画調査部長の三澤康巨氏
写真1 KDDI技術渉外室企画調査部長の三澤康巨氏
(写真:皆木優子)

 KDDI技術渉外室企画調査部長の三澤康巨氏(写真1)は、NGNに向けたKDDIの現在の取り組みについて説明した。

 三澤氏はNGNの必要性について、通信会社が抱える課題の面から説いた。インターネットは有線アクセス回線のブロードバンド化が進むなか、セキュリティ、トラフィックの急増、通信インフラとしての信頼性不足の問題が顕著になっていると指摘。中でもトラフィックの急増については、「P2Pや映像配信など、プロバイダ側でコントロールできないタイプのトラフィックが増え、定額制で収入増が見込めないなか、コストだけが増大する問題を抱えている」点も付け加えた。

 一方電話の市場を見ると、固定電話のトラフィックはピークの2001年度から4年足らずで半減し、携帯電話の加入者数の伸びも鈍化している。これらを踏まえ、「固定通信の縮小と移動体通信の飽和で、市場全体がひとつの曲がり角を迎えている」との認識を示した。

 こうした点から、通信会社にはトラフィック属性への柔軟な対応、さらなるコストダウン、非通信サービスの提供による収入増という要件が求められているとした。「これらへの対策を臨機応変に打つためにも、試行錯誤がしやすい柔軟性を備えた、統合ネットワークが不可欠」と、NGNの必要性を説いた。

 具体的には固定電話網のIP化、FTTHの推進、移動体通信のブロードバンド展開、放送との連携・融合の4点に取り組んでいるとしてそれぞれを説明した。

 なかでも喫緊の課題は固定電話のIP化だ。「もはや既存の電話設備を持ち続けることは現実的ではない」とし、2007年度末までに既存の電話交換機を、すべてCDN(高品質なIPネットワーク)上のソフトスイッチに置き換える。予定通り完了すれば、世界で初めて固定電話網の完全IP化を果たすことになる。

 IP直収も推進する。既存電話網とIPネットワークを結ぶネットワーク・ゲートウエイや、110番や119番などにも対応する緊急通報管理装置は独自に開発。これにより「KDDIメタルプラス」や「ひかりone電話」で、IPネットワーク上でも従来の使い勝手を損なわない電話サービスを実現している。

 移動体通信はブロードバンド化が当面の目標だ。3G化をほぼ達成しているauにおいては、2006年末に「CDMA2000 1x EV-DO Rev.A」の導入を予定している。現在「WIN」ブランドとして提供している「Rev.0」と比べ、上りの通信速度が153.6kbpsから1.8Mbpsへと大幅に増すことで、「ユーザーからの情報発信が容易になり、VoIPに代表されるリアルタイム・マルチメディア通信に適用できる」と、その有望性を説明した。

 盛んに取り沙汰されている通信と放送の連携について、KDDIは相互理解・相互補完の精神で取り組む方針だ。その一例として、NHK放送技術研究所、九州大学と共同開発したコンテンツ保護技術(暗号化技術)を紹介した。携帯電話向けの低速なCPUでも実用に適う軽量設計が特徴で、移動体向け放送型サービスに適用しやすいという。

 さらにNHKとはネットワーク障害時も、間断なくハイビジョン映像を配信するIPマルチキャスト技術も共同開発をしている。役務利用放送協議会にも参画し、著作権上、テレビ番組を放送と同じ扱いでIP配信できるようにする働きかけも推進するなど、IP放送サービスの実現に向けた環境作りを着々と進めている。

 将来の課題として、IP化された固定電話網で提供するサービスの充実、移動体通信網のIP化、さらには固定・移動体通信のネットワーク統合の3点を挙げた。そのなかでNGNは「回線交換ネットワークの安定性と信頼性、インターネットの広帯域と低コスト性という優位性を、すべて“いいとこ取り”したものを狙う」との位置付けを示した。

写真2 「ウルトラ3G」のプラグインコンセプト[画像のクリックで拡大表示]
「ウルトラ3G」のプラグインコンセプト

 そのなかで同社が掲げる「ウルトラ3G」構想は、NGNへ向けたアプローチの一つだ。「プラグインコンセプト」と称する設計により、下層の統合IPネットワークには多様なアクセス回線を、上層のMMD/IMSには音声やTV電話などのサービスを、それぞれ容易に追加できる(写真2)。有線・無線を問わない柔軟なサービスの提供が可能になる。

 今後のカギとなる無線アクセス技術は、さらなる高速化を図る計画だ。次世代のCDMA2000では100Mビット/秒超の回線速度を目標とし、現在の有線アクセスと同じレベルにまで押し上げる。WiMAXについても、モバイルWiMAXとEv-DOの間のハンドオーバー実験を始めている。こうした取り組みを推し進め、FMCを一歩進めたFMBC(Fixed Moile Broadband Convergence)の構築を通してNGNの実現を目指す構えだ。

(乗越政行=ライター)