◆今回の注目NEWS◆

◎平成18年「情報通信に関する現状報告」(情報通信白書)の公表 (総務省、7月4日)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/060704_1.html

【ニュースの概要】 総務省は2006年度版「情報通信に関する現状報告」(情報通信白書)を公表した。今回の特集テーマは「ユビキタスエコノミー」。ユビキタスネットワークの進展が我が国の社会経済システムに与える影響などについて、調査・分析を行っている。


◆このNEWSのツボ◆

 情報通信白書2006が発表された。商売柄ということもあるが、実は、筆者は、この白書だけは毎年購入している。

 政府の公表する白書や統計類の一番良いところの一つは、いろいろ言われても「お上」の威力は立派なモノで、多くの統計や調査(特に、法律に基づく「指定統計」というもの)のカバー率が、非常に高いということである。また、行政の基礎データにも使用される公式な調査統計なので、「データの継続性」という点にも相当な意が払われている。従って、「資料」としての価値は非常に高く、付属のCD-ROMだけでも十分価値がある。

 こうして誉めおいて多少気が引けるのだが、一方で、文章・分析の方は、多少「我田引水」の感があるのは否めない。

 今年度の情報通信白書のキャッチフレーズは「ユビキタス社会の本格化」であり、ユビキタス化が進むことによって、Web2.0に代表される新しいうねりが起こり、これによって人々のライフスタイルも変わっていく……ということが、あの手この手で書かれている。u-Japanを唱えてき総務省らしい切り口である。

 確かに、白書で指摘されるように、インターネットの利用者が8000万人を超えるという事態は、新しい時代の幕を明けるのに十分である。これにn対nというインターネットの特性が加わって、SNSなどの少数・多様なネットワーク社会が築かれてきたのも事実であるし、そこでは、ビジネスモデルも変化してくるというのも、一面の真実であろう。しかし、通信(1対1)、放送(1対n)と技術的に異なる、「インターネット」というメディアの登場後については、そこへの参加者が一定数を超えれば、こうした現象が起こるのは、予見されていたとも言える。それを殊更に「ユビキタス化の時代はデジタル化の時代と違う」「デジタルでは生活は変わらなかったが、ユビキタスで変わる」と力説されても、ちょっと違和感を感じないでもない。

 それ以上に気になるのは、これだけ「ユビキタスの新しい時代」を叫びながら、それが「政策」に反映されている気配が少ないことである。鳴り物入りの竹中懇談会も、あまり華々しい進展はないようである(関連記事)。日本の通信インフラは世界一になったかもしれないが、今までのところ、日本の通信業・放送業は、CNNもOh My NewsもiTunesも生み出していない……。

 せっかく、ユビキタス社会の先頭を走っているのだから、そのインフラを利用する側でも、既存の権利者ばかりに目をやるのではなく、「世界に羽ばたく新モデル」の出現を後押しするような政策を考えてみては、いかがだろうか。 。

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

東京大学経済学部卒。通商産業省(現 経済産業省)に22年間勤務した後、2000年7月に同省を退職。同年8月にコンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はウッドランド社長、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営コンサルティング、IT戦略コンサルティングまで幅広い領域で活動する。