フリー・エンジニア
高橋隆雄 フリー・エンジニア
高橋隆雄


今回から数回にわけてAsteriskをインストールして動作させる手順を紹介することにしよう。既に解説しているようにAsteriskはLinux上で動作するのが基本だ。ただしLinuxといっても数多くのディストリビューションが存在する。

 最初はいつものようにニュースから。2006年7月15日(現地時間)付けでAsterisk 1.2.10とZaptel 1.2.7がリリースされた。年初に発表されたAsteriskの開発スケジュールでいくと、Asterisk 1.4がリリースされる時期なのだが残念ながら本稿執筆時点ではまだのようである。

 Asterisk 1.2.10ではいくつかのバグ・フィックスと脆弱性の解消が主なアップデートで、Zaptel 1.2.7では新しいハードウェア対応が行われているようだ。

 リリース予定の通りこの時期のバージョンでは新機能追加は行われずバグや脆弱性の修正のみが行われる。1.4系がリリースされればいち早く本稿で取り上げようと思っていたのだが、残念ながらまだ多少の時間がかかるようであることと、1.4系が安定するまでにある程度の時間を要するであろうから、本連載でのインストール作業は1.2ベースで行うことにしようと思う。

・どのバージョンをインストールするべきか?

 Asteriskには大きく分けて1.0系と1.2系が存在している。1.0系というのは最初に正式リリースされたAsteriskである。1.2系がその後にリリースされたバージョンで大幅な機能追加や改良が加えられたものとなっている。1.2系はリリース当初は不安定、あるいは挙動不審な点もあったが現在では安定動作しており、なおかつ1.0系にない機能が多くあるため今からインストールするのであれば1.2系がお勧めである。

 正式リリース版以外に、Asteriskには開発バージョンがあり、こちらも入手することができる。ただし、開発バージョンは「最新の機能を試してみたい」などの実験目的以外では使用するべきではない。安定稼働を目的とするのであれば正式リリース版を使用するのがよいだろう。というわけで本稿では以降、正式リリース版を対象としてインストールや設定の手順を解説することにする。正式リリース版はAsteriskのページ(http://www.asterisk.org/)右側の"Asterisk Downloads"にあるものだ。Asteriskは現在はSubversion(svn)でダウンロードすることもできるが、開発バージョン(head)を必要としなければダウンロードページにあるtar+gzip形式のものを入手すればよい。

・日本向けの対応状況

 AsteriskはPBXなので、それ自体が「喋る」。いわゆるトーキーである。トーキー部分に関してはAsteriskはそのままでは英語圏のみ対応しており、追加で音声ファイルを入手すればヨーロッパ言語圏に対応する。ソースコード・レベルでは日本語には対応していないため日本語に対応させるには「パッチ」が必要となる。もちろん音声ファイルも日本語のものが必要となる。パッチと音声ファイルは必ずセットにして使う必要があり、実はこれがAsteriskのソース・レポジトリに日本語を反映させていない理由である。というのも、英語から日本語への単純な翻訳というのはほぼ不可能で、意味を取って訳すと発音順序の問題と単語の区切りの問題が発生するため音声ファイルにあわせたパッチを配布する必要がある。加えて本家のAsteriskでは英語音声ファイルしか同梱されていないので、日本語対応部分をAsteriskのソースに反映させることは意味がない。筆者はこう判断して音声ファイルとパッチをセットで配布する形態にしている。

 もう一つの問題は日本の回線事情である。これは「ナンバーディスプレイ」などを含む日本独特の電話回線の問題であるが、現在のところディジウムのアナログ・インタフェース・カードは日本国内で認定が取れていないため、この部分については解説しない。いくつかの情報は筆者のWikiにあるので興味のある方は参照していただきたい。

 ディジタル回線(INSのBRIやPRI)に関してはディジタル接続であるがゆえに問題は少ない。今のところ接続に使用できる拡張ボード類が限られており、かつ高価だという問題があるが、電話回線を接続するという意味においてはベストな手段である。INS接続が高価だという問題も近い将来に解決されるかもしれないのでご期待を。

 SIPなどIP上のプロトコルによる接続に関しては日本独自の「方言」問題があるのだが、有志によるパッチで様々な接続が可能になりつつある。例えば家庭向けの「ひかり電話」に関してはNTT東日本のVoIPアダプタ(RT-200KI/NE)経由ですでにAsteriskが収容可能となっている。この収容可能というのはアナログでVoIPアダプタにつなぐのではなくSIPで収容してしまう方法なので、完全にディジタル接続である。なおNTT西日本管内に関しては情報が不足しているため、情報をお持ちの方は筆者のWikiに参加していただければと思う。

 このように日本国内におけるAsteriskの使用環境も、かなり整ってきているため導入を躊躇(ちゅうちょ)する必要はない。何度も言っていることだが余っているサーバー・マシンなどパソコンがあればインストールして試してみてほしい。

 なお日本国内対応版をインストールする具体的な手順については本連載の中でご紹介することにしよう。