ヒューマンスキルとは、コミュニケーションスキルや社会人としてのマナー、リーダーシップ、人間性など他人と仕事を進めていくための能力のことをいう(図3)。ITエンジニアとして仕事をしていく上で、必須の能力であるが、その重要性を認識していないITエンジニアは多い。

図3 仕事を進めるうえで不可欠なヒューマンスキル
仕事を進めるうえで不可欠なヒューマンスキル

ヒューマンスキルは
転職の合否を大きく左右

 顧客との打ち合わせや社内の開発プロジェクトでもヒューマンスキルが成否のカギを握る。転職活動でも面接でヒューマンスキルの有無を試され、合否に大きな影響を及ぼす。また、会社が変われば対人関係も変わるので、これまでの対人関係が転職後に通用するとは限らない。どこでも通用するヒューマンスキルを磨いておく必要がある。

 ヒューマンスキルと聞くと、今さら向上することはできないと考えてしまう人が多いが、それは誤解だ。「とりわけコミュニケーションスキルに関しては、社会人になってから一念発起して、改善した人は少なくない」とエムズネットの三好代表は指摘する。

 三好代表自身、社会人になってから3~4年間は初対面の人と話すのが苦手、ましてや人前で話すのは苦痛だった。それが、今は大勢の人前で講演をしても苦にならないという。変えようという意識さえあれば、何歳になってもコミュニケーションスキルを向上させることは可能。転職までにスキルアップしておくべきだ。

 現在のコミュニケーションスキルがどのくらいの水準に達しているか評価するのは難しいが、あえて大胆に年齢とコミュニケーションスキルを対応させたのが図4だ。「転職を考えているのなら、30歳代前半までにユーザー企業の経営陣に提案でき、さらに商談をまとめる水準に達しておくべきだ」(三好代表)。

図4 年齢に応じて要求されるコミュニケーションスキルは高度になる
年齢に応じて要求されるコミュニケーションスキルは高度になる

 では、コミュニケーションスキルを引き上げるにはどうすればいいのか。意外に思われるかもしれないが、三好代表はプロジェクトマネージャやシステムアナリストなどの情報処理技術者試験の試験勉強を勧める。プロジェクトマネージャやシステムアナリストの試験に合格するには、高度なコミュニケーションスキルが必要になるからだ。

 これらの試験は、マークシート式の午前試験、記述式の午後!)試験、論述式の午後!)試験に分かれている。午後の試験は、記述式、論述式試験のいずれも時間との戦いである。合格するためには、短時間で的確に問題文の状況を把握し、自分の考えをまとめ、相手に伝わるようにアウトプット(表現)しなければならない。

 受験経験者なら理解できるだろうが、その判断力は会話並みのスピードが必要になる。ドキュメントを介しているとはいえ、問われるのは紛れもなくコミュニケーションスキルだ。時間が足りずに不合格になったら、コミュニケーションスキルを磨いていく必要があると考えたほうがよい。

図5 上級者向けの情報処理技術者試験ではコミュニケーションスキルが必須
上級者向けの情報処理技術者試験ではコミュニケーションスキルが必須

 最近、情報処理技術者試験対策本の中には論文対策が充実したものが登場している。これらを通して、短時間で状況を把握する方法や、わかりやすい表現などを一から学ぶことができる。「合格水準に達していれば、コミュニケーションスキルはそれなりにあると考えてよいだろう」(三好代表)。

 情報処理技術者試験の準備を通してスキル向上を図るだけでなく、演壇技術について学ぶことも役立つ。演壇技術とは、広義にはプレゼンテーションスキルといえるもので、人前で説得力がある話をするためのテクニックのことだ。

 演壇技術を学ぶ方法は様々。その代表例が話し方教室に通ったり、講習会に参加したりすることだ。コストをかけないのなら、演壇技術を扱った書籍を読んだり、発声練習をしたりすればよい。ただし、プレゼンテーションスキルに関しては、頭で理解していても、緊張したり、あがったりして、思い通りにできないことがよくある。このため、演壇技術を習得する際には、書籍を通して知識を得るだけではなく、実際にやることを忘れないでほしい。

自分では自信があっても
客観的に見ると至らない点も

 かつてコミュニケーションスキルに悩んだ三好代表の場合、演壇技術を理解したあとに、積極的にプレゼンテーションを行い、経験を積んだという。中でも、最も役立ったのは自分のプレゼンテーションをビデオに撮影したことだ。後で見てみると、自分の悪いところを客観的に把握できた。実際にプレゼンテーションしているときは完璧と思っていたのに、第三者の目で客観的に見ると至らない点が多々あった。

 プレゼンテーションの機会がないときは、普段の会話をICレコーダなどに録音して、後で聞いてみるのもよいだろう。顧客に提案しているときは言葉のキャッチボールを完璧にしているように思っていても、録音して聞いてみると的はずれな応対をしてしまったことに落胆するに違いない。それほど意思疎通を図るのは難しい。

 政治家は選挙で当選するために、短時間で自分を良く見せなければならない。芸能人もイメージを壊さないように、どんな感情のときにでも同じ表情をつくらなければならない。そのため、それ相応の努力をしている。ITエンジニアにも同じことが言える。

 「鏡の前で笑顔の練習、相手の目を見て話をする練習、緊張を隠す練習、ボディランゲージの練習などヒューマンスキルを高めるためにやるべきことはたくさんある」(三好代表)。ヒューマンスキルは生まれ持ったものとあきらめずに努力することが大切だ。