■前回に引き続き理不尽系への対応について。あなたの周りにもいませんか? いつも理不尽なことを言われている人。なぜだか理不尽なことを言われる人というのは、決まっているものです。その謎を探ってみます。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 あなたの周りをよく見てください。

 「あの人の持ってくる案件は、いつもわがままなお客さんばかりなんだよな」
 「あの人の案件は比較的スムーズにいくんだよね」

 というふうに、理不尽な要望が多い案件はいつも同じ営業やプロマネに偏っている。一方であまり理不尽なことが発生しない人もいる。

 そう、理不尽なことを言われる人というのは、たいてい決まっているのだ。

 理不尽なことを言う人は誰に対しても理不尽なことは言わない。相手を見ている。 そもそも人が理不尽になるのは、自分より強い相手に理不尽なことを言われ、無力にそれを受け止めざるを得ないときだ。

 言い換えると、理不尽な人というのは、自分より強い相手に対しては卑屈なまでに弱く、自分より弱い相手に対しては徹底的に強い、そういう人のことなのだ。

理不尽は上から下へ無限連鎖する

 水は流れるところがあれば、下へと流れていく。それと同じで理不尽は、自分より下の立場で受け容れてくれる人がいれば、上から下へと無限に連鎖していく。

 IT業界というのはまさにそういう構造だ。

 社長が部長に「こんなシステムになるなんて聞いてないぞ」
 部長はベンダー営業に「社長がダメと言ってるから仕様変更しろ」
 営業はプロマネに「お客さんが言ってるからしゃーないだろ」
 プロマネは協力会社に「クライアントの要求だから受けるしかないだろ」
 協力会社の社長は社員に「うちは下請けだから仕方ないだろ」
 社員は自分の子供に「あー、なんだか分かんないけど、おまえが勉強しないから悪い!」

と、最後は全然関係ないところに、理不尽に当り散らすことになる。

 上から下へまさに理不尽の無限連鎖だ。

 この負の連鎖は、どこかで断ち切らなければ延々と続いていく。勇気を持って断ち切りたい。

 そうは言っても力関係でどうしても拒否できないことがある。だから、上から降ってくる理不尽をどこかの段階で完全にブロックすることは事実上不可能だ。

 しかし、理不尽の最大値を減少させることはできる。

理不尽のキャパを小さくする

 人は相手を見て要求の幅を変えると前にも述べた。それは普段の交渉事の中で「この相手はどこまで無理を聞いてくれるか」を無意識のうちに値踏みしているからだ。

 相手が受け容れてくれる理不尽のキャパが大きいと判断すると、いざ大事になっときの理不尽の最大値もそれに比例して大きくなる。逆にキャパが小さいと判断すると、最大値も比較的小さくなる。

 だから、そのキャパを小さくしておくのだ。

 そのためには日常のちょっとした、理不尽とは言えないぐらいの要求に対するコントロールが重要だ。別に要求を聞いても問題ないような「ちょっと無理をきく」程度のことをしっかりとブロックする。

 普段から何かと融通を利かせて顧客とのリレーションを築き、いざとなったときに理不尽なことを言われないようにする、という考え方もある。

 しかし、「少々無理がきく」、「融通がきく」というのは「いざとなったら理不尽なことを受け容れてくれるに違いない」という危険な期待を相手に潜ませてしまうのだ。

 「割れ窓理論」というのがある。家の窓が割れたまま放置されていると強盗などに狙われやすいという犯罪学上の理論。小さなリスクを放置していると、大きなリスクにつけ狙われるということだ。

 「あの人は、気配りはできるけど、いまひとつ無理が聞かないんだよな」

 少々融通の利かないヤツ的な印象かも知れないが、理不尽の大きなリスクが潜む相手に対しては、こう思わせておくことが何よりの対策だ。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。