総資本回転率に業種ごとの特性があることを,オリエンタルランドの例を見て確認してみよう。

 オリエンタルランドは不景気知らずの“勝ち組”の印象が強い。しかし,2001年3月期の総資本経常利益率(ROA)1.8%を他業種平均と比べてみると,ここに挙げた業種の中では最低の収益性となっている(表1)。その原因を分析するために,ROAを売上高経常利益率と総資本回転率に分解してみよう(経常利益ベースのROAを採用しているので,売上高利益率は売上高経常利益率)。売上高経常利益率を見ると6.0%となっており,他業種と比較しても高い水準であり,短期のパフォーマンスとしては悪くない。

表1 オリエンタルランドは総資本経常利益率(ROA)が低い!?

 オリエンタルランド製造業平均不動産業
平均
建設業平均サービス業
平均

総資本経常利益率(ROA)(%)

1.8

4.3

2.1

2.3

3.3

売上高経常利益率 (%)

6.0

4.9

6.1

2.7

8.7

総資本回転率 (回)

0.3

0.9

0.4

0.8

0.4

 そこで総資本回転率を見ると,こちらは0.3回で最低の水準になっている。これは1年間に投下資本の30%分しか売上として回収していないことを意味しており,これが企業全体の収益性を示すROAの足を引っ張っていることがわかる。

 オリエンタルランドの主力事業は言うまでもなくテーマパーク事業だが,テーマパーク事業の本質は装置産業だ。巨額の資金を投じてテーマパークという巨大な装置を作り,そこに日々限られた人数のお客様に来園してもらうことで,投下した資金を回収するというビジネスモデルである。したがって,カネ回りは必然的に悪くなる。これがオリエンタルランドの総資本回転率が低い理由である。

 2001年3月期は,イクスピアリとディズニーアンバサダーホテルを開業し,また翌年度の2001年秋には東京ディズニーシーを開業しており,積極的な投資が続いている。テーマパーク事業のキーとなる成功要因はリピータ率の向上であり,常に新しさを感じさせるための大小取り混ぜた継続的投資はテーマパーク事業を継続的に成功させるための必須条件といえる。その意味では,総資本回転率が低いのは当然である。むしろ,継続的な投資ができる体力と企画力を持っていることが,他のテーマパークと決定的に違うオリエンタルランドの強さの秘密である。

 実は,売上高経常利益率を2000年3月期で見ると,10.8%と非常に高い水準になっている。総資本回転率は2001年と同じ0.3回だったが,売上高経常利益率に引っ張られて,ROAも3.4%に達している。2001年3月期に売上高経常利益率が低下したのは,減価償却費の負担と借入に伴う支払利息負担が上昇して,利益を圧迫したことが主な原因だった。これも積極的投資が元になっているわけである。


遊休資産が総資本回転率を低下させる

 総資本回転率は,前述のように業種特性によって異なる。例えば,大掛かりな設備が必要な重厚長大産業で低く,大掛かりな設備投資を必要としない流通業では高い。しかし,同業種で比較して差がある場合は,良しあしの問題となる。

 総資本回転率は以下のように変形できる。

資本回転率解

 これは,分母の総資本を総資産に代えただけだ。貸借対照表の構造上,右側の総資本と左側の総資産は必ず一致するので,この変形は当然であり,意味が無いという人もいる。しかし,筆者は意味があると思っている。

 総資本回転率が低い場合,その原因は,分子の売上高が小さいか,分母の総資本が大きいかのどちらかである。では,なぜ,その売上を達成するために,それだけ多くの総資本の調達(貸借対照表の右側)が必要だったのか。それは,持っている仕組み,すなわち総資産(貸借対照表の左側)が過剰だからだ。

 この理屈は,個人の生活に照らしてみればすぐ分かる。なぜ,こんなにローンが多いのか。それは,身に余る家に住んだり,身に余るクルマに乗っているからだ。

 だから,総資本(資本の調達額)を減らすためには,総資産(調達した資本の使途)を減らすしかないのである。

 ここで,売上高事業利益率における“コスト”の扱いと同じ注意が必要になる。総資産とは,仕組みだ。企業の売上は,正に仕組みによって生み出される。したがって,売上の源泉となっている仕組みを減らしたら,やはり本末転倒になる。売上に貢献する仕組みであれば,むしろ積極的に増やさなければならない。減らすべきは,売上に貢献していない資産だ。

 体格になぞらえれば,パワー(売上)に貢献していない肉(資産)を落とさなければならないということだ。一見すると,おそらく,あなたは相撲取りよりはスリムだろう。しかし,相撲取りの体はほとんどがパワーの源泉となる筋肉だ。それに対して,あなたの(筆者を含めて)お腹の周りについているものは,パワーには貢献していない。人はそれを“ぜい肉”と呼ぶ。企業で言えば,遊休資産だ。

 総資本回転率を上げるためには,ぜい肉である遊休資産を減らすか,売上の源泉となる筋肉に変えなければならない。しかし,これはそう簡単ではない。あなたのぜい肉を落とすにしても,筋肉に変えるにしても,相当の努力と時間が必要なことを思えば,容易にその難しさは理解できるだろう。

 そうは言っても,バブルを経験してしまった企業は,売上に貢献しない遊休資産を抱えていることが多い。難しいからといって放置しておくと,後になって大手術が必要になることもある。

 図1は,鉄道会社の収益性を連結ベース比較したものだ。ROAと売上高事業利益率についてはJR東日本の高さが目立つが,総資本回転率になると一転して低くなる。これは,公共性の高い会社によく見られる特徴だ。鉄道事業は総じて公共性が高いが,中でもJR東日本は,元々国営であったこともあって,公共性が高い。公共性が高いということは,地方の不採算路線であっても,企業の一存で撤退できないということだ。不採算路線は,文字通り,売上に貢献していない仕組みであるから,このような仕組みを多く抱える企業は,総資本回転率が低くなる。

図1●鉄道会社の収益性

 ところが,西武鉄道はJR東日本より総資本回転率が低い。これは本来,自由裁量の大きな私鉄にはあってはならないことだ。ここでの比較は連結ベースでの比較なので,ホテル事業や観光事業なども含まれる。西武鉄道グループが,傘下のプリンスホテルやゴルフ場を大量に手放す報道があったのは記憶に新しい。これは,悠長な体質改善では間に合わないので,大手術によってぜい肉をそぎ落としにかかっていると見ることができる。

 不祥事も重なって,大転換期を迎えている西武鉄道グループだが,収益性の低さ,総資本回転率の低さは,実は今に始まったことではない。採算性を度外視し,ある特定の人の思惑だけで資産を増やしてきたツケが,ここに来て大手術を迫られていると言える。

■金子 智朗 (かねこ ともあき)

【略歴】
 コンサルタント,公認会計士,税理士。東京大学工学部卒業,東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。日本航空株式会社情報システム本部,プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント等を経て独立。現在,経営コンサルティングを中心に,企業研修,講演,執筆も多数実施。特に,元ITエンジニアの経験から,IT関連の案件を得意とする。最近は,内部統制に関する講演やコンサルティングも多い。

【著書】
 「MBA財務会計」(日経BP社),「役に立って面白い会計講座」(「日経ITプロフェッショナル」(日経BP社)で連載)など。

【ホームページ】
http://www.kanekocpa.com

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