近々発売になる『日経情報ストラテジー』9月号(7月24日発売)に掲載する特集記事「日本版SOX法8つの誤解」のための取材活動が一段落した。財務報告の信頼性を確保するための社内体制を義務付ける日本版SOX法の施行が1年半後に迫るなかで、財務報告にかかわる不正やミスを未然に防ぐための内部統制整備の取り組みを数多く取材した。

 この取材の一環で、ヤマト運輸グループの商用車リース会社であるヤマトリース(東京・豊島)の小佐野豪績(ひでのり)社長にお会いした。小佐野氏に会うのはもう5度目ぐらいになる。最初はヤマト運輸の情報システム部門で、小佐野氏が宅配便の次世代基幹システム構築にかかわっていたときだった。その後、昨年5月にヤマトリースに出向して現在に至る。

 小佐野氏は自らのことを「新しいもの好き」だと言う。何度お会いしても、常に新しいことを考えて実現しようとしている方だ。例えばヤマト運輸でも、セールスドライバーが持ち歩く業務端末や小型プリンターなどを無線通信技術「ブルートゥース」を使ってコードなしで接続できるようにした。

 ヤマトリースに来てもIT(情報技術)の活用に対する情熱は失っていない。リース済みの中古トラック紹介サイトを新技術「Ajax」を使って構築したりもしている。(関連記事

 しかし、その小佐野氏は「SOX法対応のためには、情報システムより直接話すことが重要だ」と言う。IT業界がSOX法対応をビジネスチャンスととらえていることに対しても、強い違和感を持っている。「情報システムで社内管理を強化しても、社員が不満を持てば不正につながってしまう」

 小佐野氏は今、ヤマト運輸にいたとき以上に多忙を極めている。社長業の合間をぬって、全国に30カ所以上ある営業所を順次訪問しているからだ。ヤマト運輸グループ企業として内部統制を整備するに当たって、社内手続きの変更などを説明する目的で、営業担当者との対話を繰り返している。営業担当者にとって手間が増える面があるため、その必要性を丁寧に説明している。一度訪問すると、丸1日営業活動に同行。夕食時も使ってじっくり話し込む。

 日本版SOX法対応と言えば、どうしても文書化やIT活用といった技術論ばかりがクローズアップされる。実際に、筆者自身もこうした技術論についてのノウハウを収集しようと取材活動を始めた。しかし、小佐野氏の話から、社員と膝を突き合わせることの重要性を改めて思い知らされた。