テクニカルスキルは、ITエンジニアの能力を最も象徴するものだ。現在のテクニカルスキルが他社でも通用するかどうかをチェックするポイントは2つある。1つは「基礎力があるかどうか」、もう1つは「年齢に応じたスキルを持っているかどうか」である。

 エムズネットの三好代表は社内研修やセミナーの講師として出向くと、モチベーションが高いITエンジニアから「将来に備えて、今、どのように技術を習得しておくべきでしょうか」という質問をよく受ける。その際、情報処理技術者試験を受けることを勧めているという。

図1 情報処理技術者試験の資格と職種と必要な技術の関係[画像のクリックで拡大表示]
情報処理技術者試験の資格と職種と必要な技術の関係

 すると、ITエンジニアの大半は、きょとんとした顔をする。有力ベンダーの資格に比べ、情報処理技術者試験で取得した資格は軽んじられる傾向がある。実務に役立たないと思われている情報処理技術者試験の受験を勧められ意外に思うようだ。

優秀な技術者は基礎がしっかり
技術転換も思いのまま

 新しい技術が出現するたびに先陣を切ってどん欲に吸収に励むITエンジニアがいる一方で、技術転換ができないITエンジニアもいる。この違いはどこにあるのか。勉強量の差だとか、頭の差だとか、センスの違いだとかいろいろ指摘されているが、どれも正しくない。三好代表は「いとも簡単に技術転換を図るITエンジニアに共通しているのは、基礎がしっかりしていることだ」と指摘する。

 例えば、データベースで考えてみよう。Oracleの機能に詳しいITエンジニアの中には、SQLServerやPostgreSQLの機能を習得するのに四苦八苦している人がいる。おそらく、そういうITエンジニアは新しい技術を基礎から理解しなければならないから苦しむのだろう。それにひきかえ、データベースの基礎理論、ハードウエア、OS、DBMSといった特定の製品に依存しない基礎知識があるITエンジニアは、Oracleという応用部分をSQLServerやPostgreSQLに差し替えることで習得できる。

 データベースに限らない。ネットワーク、セキュリティ、ハードウエア、OS、アプリケーションはいずれも特定の製品とは関係ない基礎技術の上に成り立っている。

 各製品に組み込まれた新技術の中から、普遍的で今後も重要だと判断した技術を情報処理技術者試験では「基礎技術」と位置付ける。「情報処理技術者試験で取得した資格は実務に役立たないと思われているが、その一面だけを見て不必要と判断するのは大きな間違いだ」と三好代表は指摘する。

 情報処理技術者試験の受験を勧める理由はそれだけではない。情報処理技術者試験は、IT業界の識者がITエンジニアのキャリア形成に必要な知識について長い年月をかけて議論を重ねた結果の産物である。そのため、試験の体系や問題の完成度は高い。三好代表は「将来のITエンジニアに必要な知識習得のためのカリキュラムを作成してほしい」という依頼をIT企業からよく受けるが、実際に作成してみると、限りなく情報処理技術者試験の体系に近付いてしまうという。

 情報処理技術者試験は、図2のように14区分に分かれている。大きくまとめると、「基礎」「システムエンジニア」「監査」「テクニカル系」「ユーザー系」の5つに分類できる。図2の縦軸に記載している年齢は平均的な取得年齢を示す。自分の年齢に照らして資格取得が進んでいるかどうかをチェックしよう。

図2 情報処理技術者試験の資格と取得すべき年齢
システムエンジニア、監査、テクニカル系、基礎、ユーザー系に大別できる[画像のクリックで拡大表示]
情報処理技術者試験の資格と取得すべき年齢

 基本情報技術者とソフトウェア開発技術者は、基礎中の基礎を学ぶ資格で、小学校の国語、算数、理科、社会のように、他の資格を取得する際の基礎知識を幅広く試すものだ。この知識がないと専門書や製品マニュアルを読めなかったり、講習会に出席しても内容を把握できなかったりする事態になりかねない。ITエンジニアにとって、最低限習得しておくべき資格だ。

 情報処理技術者試験の他の資格に関しては、自分が目指すべき分野の資格を取得していけばよいだろう。例えば、システムエンジニアとして活躍していこうと考えているのなら、30歳前後でアプリケーションエンジニアを、30歳代前半までにプロジェクトマネージャを、30歳代後半にはシステムアナリストをそれぞれ取得しておくべきだ。

基礎を習得したうえで
実務を通してスキルアップを

 とはいえ、資格は未経験者が参考書を使って知識を習得するもの。いずれの資格を取得しても、専門分野の基礎を習得したのにすぎない。

 スキルは基礎をベースに実務を通して磨くものだ。実務面では、ベンダーの資格は役に立つ。ベンダーの資格は「今日取得すると明日からお金になる」という性質のものだ。どちらか一方だけ取得しておけばよいというものではなく、情報処理技術者試験とベンダー資格の両方をバランスよく取得しよう。