図6 食品総合研究所が青果物のトレーサビリティ用に策定した約130個のデータ項目<BR>農家や流通業者,食品メーカーなどに聞き取り調査を実施した上で,データ項目が不足しないことを前提に多めに策定した。ここには,一部を抜粋して25項目を載せた。テキスト・データだけでなく,生産者の顔写真や自己紹介する音声など,マルチメディア・データについても項目を設けている
図6 食品総合研究所が青果物のトレーサビリティ用に策定した約130個のデータ項目<BR>農家や流通業者,食品メーカーなどに聞き取り調査を実施した上で,データ項目が不足しないことを前提に多めに策定した。ここには,一部を抜粋して25項目を載せた。テキスト・データだけでなく,生産者の顔写真や自己紹介する音声など,マルチメディア・データについても項目を設けている
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 キユーピーは今のところ,1社単独でトレーサビリティに取り組んでいる。しかし冒頭で述べたように,製品のライフサイクル全体にかかわる,すべての企業間で履歴情報をやりとりしなければ,原材料/部品から廃棄に至る「真のトレーサビリティ」は実現できない。キユーピーの高山部長も「原材料の納入業者から製造履歴を提示してもらったり,工場から出荷した製品が系列卸を経由してどの小売りにいつ渡ったかまで追跡したい」と語る。

 ただしそのためには,解決すべきいくつかの課題がある。1つは,履歴情報の標準項目が存在しないことだ。現状では,「どんな項目を設けるか」,「どういう項目名にするか」は,各社がバラバラに決めている。これでは取引先ごとに,煩雑なデータ変換が必要になる。

 この問題の解消に向けた取り組みが始まっている。青果物については,農林水産省系の独立行政法人である食品総合研究所がアンケート調査を行ったうえで,2002年に130個のデータ項目を策定した(図6[拡大表示])。これが業界標準になるどうかは未知数だが,将来を見据えた取り組みの1つと言えるだろう。

 原材料/部品メーカーや製造,物流,流通など,製品ライフサイクルにかかわるすべての企業の協力を,どうやって取り付けるかという問題もある。「食品業界でも企業によってトレーサビリティに対する理解度や積極性において温度差が大きく,特に卸売業者の取り組みが遅れている」(東芝テックの鎗田清一郎・流通情報システムカンパニー営業推進統括部総合営業部食品トレーサビリティプロジェクト・コンサルタント)。

 この問題については,先進企業の主導によって解消されていくと見られる。「今後トレーサビリティは,EDIやSCMと同じように,取引企業を選別する際の評価項目になる。このため,対応しない企業は取引から除外されかねない」(アクセンチュアの勝屋パートナー)からだ。

 実際,石井食品のように,トレーサビリティに取り組むに当たって「情報開示の協力を得られない生産者との取引を打ち切った」(石井健太郎社長)というケースが出てきている。

ICタグが“起爆剤”になる

 先に述べたように,現状ではトレーサビリティは食品業界で取り組みが先行している。しかし取り組みが全業種に広まる“起爆剤”となり得る技術がある。それが,ここに来て普及の兆しを見せているICタグだ。

 ICタグはバーコードと比べて,記録できる情報量がケタ違いに多い,読み取り作業が容易などのメリットがある。現状では価格が高いため,トレーサビリティにはほとんど使われていない。しかし本誌3月号の「注目製品・技術」で解説したように,ICタグの価格は急激に下がっており,1個当たり数円になるのも時間の問題である。

 価格が下がれば,現在のバーコードに代わってICタグが使われるようになる可能性が高い。つまり様々な業界で,製品にICタグを取り付ける動きが進む。これがトレーサビリティのインフラになることは容易に想像がつくだろう。「トレーサビリティが普及するのは必然」という前提で,今から備える必要がある。

(中山 秀夫)