政府は7月7日,経済財政運営の基本方針「骨太方針2006」を閣議決定した(関連記事)。この中で通信関連の最大の懸案だったNTTの組織形態については,「2010年の時点で検討を行い,その後速やかに結論を得る」ことが決まった。

 この「2010年」にかかわる表記を巡って,数ヶ月にわたって攻防戦が繰り広げられたことは既報の通り(関連記事)。竹中総務大臣が主催した「通信・放送の在り方に関する懇談会」(竹中懇談会)の報告書は,「『2010年には』通信関連法制を抜本的に見直すため,NTT持ち株会社の廃止などを含む検討を速やかに始めるべき」(『』は編集部による注記)と提言。一方,自由民主党の片山虎之助参院幹事長が委員長を務める「電気通信調査会 通信・放送産業高度化小委員会」(片山委員会)は,NTTの組織問題について,「『2010年ころ』にNTT法などの関連法令の改正を検討するべき」と提言していた。調整のうえ骨太方針には「2010年の時点で」と盛り込まれたわけだが,ではなぜ彼らは2010年にこだわったのだろう。

 まず竹中懇談会は,「20年間にわたってNTTはこのままでよいのか」(松原聡座長・東洋大学教授)というスタンスでNTTの在り方を考えたという。現在のNTT法が1996年秋の合意を経て,大幅に改正されたのは1997年のこと(NTTが再編成されたのは1999年)。NTT再々編にかかわる検討を2010年に開始したのでは,実際の法改正までには数年を要し,新体制のスタートは2014年か15年くらいになる。つまり1996年に固まったNTTの体制が,20年間続く可能性があることに大きな疑問を感じたというのだ。だからこそ竹中懇談会は,2010年までに検討が終わり,法改正などを実施できるように「2010年には」という表現を掲げていたのだ。

 一方,NTTは2005年11月に「2010年までに光ファイバを3000万世帯に敷設する」という中期経営計画を実現するアクションプランを発表していた。これはNTT法を改正しないままNTT社内の体制を変更し,3000万世帯への光ファイバ敷設という難事業に突き進もうとしたもの。和田紀夫社長は発表の直後,あえてアクションプランを公開したのは,光ファイバの敷設に向けた決意を内外に示す意図があったことを明言している。体制の変更により光3000万世帯に突き進むと宣言し,NTT組織論に対する外部からの意見や,グループ内からの突き上げなど,異論を封じ込める狙いがあったのだ。

 背景には,2010年までは組織論に忙殺されたくないというNTTの思いがある。1996年の合意に至るまで,NTTは長い年月をかけて政府や郵政省(当時)などと折衝を繰り返した。あるNTTの幹部は,NTT再編の際にはとてつもないパワーが割かれたと振り返る。2010年までに,世界中のどの事業者も実現したことがない難事業に取り組むというときに,並行して組織論にパワーを割けないというのが偽らざる本音なのだ。

 NTTの幹部は,竹中懇談会でNTT法の改正議論が進んでいたときに,片山委員会に働きかけをしたことを認めている。片山委員会の主張に,2010年までは“組織論から放って置いてくれ”というNTTの意図を代弁していた面が垣間見えたのもこうした理由があるようだ。

 さて調整を経て固まった骨太方針では,双方が納得する玉虫色の表現として「2010年の時点で」がひねり出されたわけだが,2010年にNTTの組織論の検討を始めても「2010年の時点で検討を行い,その後速やかに結論を得る」という言葉とは何の矛盾もない。その鍵は「速やかに」という部分に期限など定量的な表現がなされていないところにある。見方によっては,2010年までNTTは現行の体制のままでいられるとも読める。

 ここまで2010年までの体制にこだわったNTTには,ぜひ目標の通り,光ファイバの3000万世帯実現を成し遂げてほしいものだ。今回の議論を経たことで,いままで以上にその責務に重みが加わったと筆者は考えている。