コスト減と並んで通信事業者がNGNに期待するのが新しいサービスによる収入を得ることだ。FMC,トリプルプレイ,そして他のサービス・プロバイダへの機能提供がその核になる。

 通信事業者がNGNを構築するのはコスト削減と新たな収入の確保が目的である。第1回目でIP化によるコスト減について見たので,今回は新しい収入源の話をしよう。

 NGNの上で実現される新しいサービスの代表がFMC(fixed mobile conversion)と放送サービスだ。特に放送とIP電話とブロードバンドの三つのサービスを合わせたサービスは「トリプルプレイ」と呼ばれ,ブロードバンド時代の「キラー・サービス」(そのサービスのためにユーザーが契約をするようなサービス)として特に米国では通信事業者の戦略の柱になっている。

 実はFMCもトリプルプレイもNGNがなければ実現できないというものではない。実際,既にNGNを使わずに提供している事業者がいくつも出ている。しかし,NGNがあればよりスムーズに提供できるようになるし,将来はNGNの上で実現するのが当たり前になってくるだろう。

携帯電話機を固定電話の端末としても使うFMC

 FMCとは文字通り固定電話(fixed)と携帯電話(mobile)を融合させるもの。融合の方法にはいろいろあり,例えば固定電話と携帯電話の請求書を1枚にまとめたものもFMCの一種とされている。その中で,ユーザーの期待が集まるのが端末を融合させる「OnePhone」と呼ばれるサービスだ(図1)。携帯電話端末を固定電話にも利用できる。

図1 1台の端末を携帯にも固定にも使うOnePhoneがFMCの代表的サービス
1台の端末を携帯にも固定にも使うOnePhoneがFMCの代表的サービス

 FMCのサービスが脚光を浴び始めたのは2005年から。2004年末に韓国KTがOnePhoneのサービス「DU:」を始め,2005年6月には英BTも「BT Fusion」というFMCのサービス始めた。どちらのサービスも家庭向けのもので,外では携帯電話として使い,家庭内ではBluetoothを使って固定電話網経由で電話できる。

 一方,日本ではFMCに似たもので「モバイル・セントレックス」と呼ばれる企業向け端末が台頭している。企業の中では無線LANを経由してIP電話の内線端末として使い,社外では携帯電話として使う。

 FMCは高価な携帯電話の通話料を削減できることでユーザーにとっては大きな魅力がある。一方,携帯電話の事業者にとっては通話料はむしろ減ってしまうかもしれない。また,固定電話の事業者にとっては携帯電話に奪われたユーザーや通話収入を奪い返す元になる。実はFMC(およびNGN)に熱心に取り組んでいるのは元々固定電話をやっていた通信事業者がほとんどなのである。

 前述のように,既にFMCのサービスは始まっており,NGNを使わなくても実現は可能だ。ではNGNとFMCはどこでつながるのだろうか。

 NGNを構成する技術の一つにIMS(IP multimedia subsystem)がある。IP電話の交換機能などを提供する部分だ。IMSは元々第3世代携帯電話の標準化をする3GPPで策定されたもので,携帯電話の網をIP化するときに,ローミングなどを実現する機能を持つ。NGNではIMSを使うことにより,ユーザーがどこからアクセスしても同じようにネットの機能を使えるようにできるのだ(図2)。

図2 NGNのコアであるIMSを使うとFMCが容易に実現できる[画像のクリックで拡大表示]
NGNのコアであるIMSを使うとFMCが容易に実現できる

 また,このときに実現できるのは電話のサービスだけではない。例えばデータ通信やビデオなども,アクセスする場所を問わずに使えるようになる。現在IMSを使わずに提供されているFMCと比べてワンランク上のサービスが実現できるのである。

 このようなFMCを中心としたNGNのプランを作っているのがKDDIである。ウルトラ3Gという名称で2005年6月に発表した(図3)。

図3 KDDIのNGN計画「ウルトラ3G」[画像のクリックで拡大表示]
KDDIのNGN計画「ウルトラ3G」