■シンクライアントを導入する自治体が増えている。情報漏えいをなくす切り札として期待されているほか、端末の集中管理が可能になる点も評価されている。ただし、初期導入コストが高い、動画の扱いに向かないなど欠点もある。

※ この記事は『日経BPガバメントテクノロジー』第12号(2006年7月1日発行)に掲載された「特集 情報セキュリティ」のうち「第1部 定番になるかシンクライアント 中身がなければ情報は漏れない」を掲載したものです。


 三重県度会(わたらい)町では、基幹業務システムをオープン系システムに刷新するのに合わせて、今年5月8日から一部でシンクライアント・システムが稼働している。

■小規模組織でも導入できる「ブレード型」を選択

■三重県度会町では、
 ディスプレー一体型
 端末を導入
三重県度会町では、ディスプレー一体型端末を導入
度会町の山下和行税務課長の机には、ノート型端末が2台並んでいる。左がシンクライアントで、ログインは静脈認証システムを採用した。

 度会町がシンクライアント導入の際に重視したのは、セキュリティ面。実はここ2年くらいの間に、近隣自治体で庁舎のパソコンが盗難に遭う、県立高校で卒業生名簿が盗まれるといった事件が起こっており、セキュリティ向上に取り組む必要性を感じていたのだという。同町の山下喜市総務企画課企画係長は「データ流出防止の抜本的対策となるシンクライアントを選んだ」と語る。

 導入した台数は30台で、戸籍、税務、福祉、年金・保険など基幹系システム用端末のパソコンをシンクライアント端末と置き換えた。各課に1~2台ずつと、住民票交付などの窓口に設置している。職員の認証は指静脈認証装置で行う。情報系のネットワークには、職員61人に1台ずつのパソコンで接続している。

山下喜市氏
度会町総務企画課
企画係長
山下 喜市氏

 度会町が導入したのは、導入例の多いセンター型システムではなく、日立製作所のブレード型。センター型は、1台のサーバーで20台程度の端末を制御するのに対して、ブレード型は1台の端末を1台のサーバーで制御する(図1)。ブレード型なら端末を1台増やしたければ、1台ブレードを増やせばいい。しかしセンター型は、単純に計算すると21人になったらサーバーを2台に増やさなければならなくなり、小さな組織には不向きといえる。今回の投資総額は、4700万円(基幹系システムをオープン化したコスト含む)という(注1)

(注1)システム構築は、地元のインテグレーターである松阪電子計算センターが担当した。

■図1 三重県度会町のブレード式シンクライアント
 の概念図
三重県度会町のブレード式シンクライアントの概念図

 シンクライアントとは、端末には最低限の機能しか持たせず、ファイルやアプリケーションソフトをサーバーで管理するシステム、または端末を指す(注2)。端末にはハードディスクなどは付属しておらず、小容量のメモリーと低スペックのCPUが搭載されている程度。USBメモリーなど外部記憶装置も通常は接続できない(5ページの囲み記事参照)。

(注2)端末には、ディスプレー一体型とターミナル型がある。ディスプレー一体型は通常のノートパソコンと同じ外見をしているが、ターミナル型は非常に小さく、電話機程度の大きさしかない。

 現在、第二次“シンクライアントブーム”が起こっている。1990年代末期に起こった第一次ブームでは、サーバー単位で管理ができる利便性が売り物だった。しかし、価格が高かったこと、ネットワーク環境が貧弱で操作性が非常に悪かったことなどが原因で、普及しなかった経緯がある。今回は、セキュリティの堅固さに注目が集まっている。