「Windowsの対抗馬」として騒がれたこともあるLinuxだが,中堅・中小企業のメイン・サーバーのOSとしては,ほとんど顕在化していないサーバーOSのひとつに過ぎないことが,今回の調査結果から明らかになった。

 Windows以外のサーバーOSの導入率の経年変化については前回触れた通り,この7年ほど,ほとんど変化がない。

 なぜ「Linuxは普及しないのか?」。この状況は,かつて「NECのPC-9800」がパソコン市場で大半のシェアを確保していた時に似ている。技術者,アプリケーション及び開発するソフト・ベンダー,システム・インテグレータ,サービス/サポート企業など,OSを取り巻く環境が「まずWindowsありき」で動いている。


社内に分かる人がいないから「Linuxを使うつもりがない」

 中堅・中小企業は,Linuxをなぜ「使うつもりがない」のか? その理由として最も多かったのが,「Linuxを理解する技術者がいない」ことで,58.5%と実に回答の約6割を占めた。次いで「サービス/サポートが不安」38.0%,「今使用しているOSに満足している」が37.1%で続く。以下,「実績が少なく不安」(26.6%),「アプリケーションが少ない」(20.7%)などの理由があった。

図1●Linuxを使うつもりがない理由(回答数537)


 単純に考えてみても,「Linuxを理解する技術者がいない」のであれば,今までWindowsを利用していたユーザーがLinuxにリプレースするのは簡単ではない。その上,今までオフコンやWindowsで受けていたサービス/サポートが,Linuxでもきちんと受けられるのかどうかに不安があれば,導入に躊躇(ちゅうちょ)するのは当然だろう。

 「今使用しているOS=Windowsに満足している」37.1%と「Windowsのほうが良いと思う」19.4%は,ほとんど同じことを語っている。Linuxは「実績がなく不安」26.6%,「アプリケーションが少ない」20.7%も課題として指摘されている。Linux用アプリケーションを自社開発できる技術力を持つユーザーなら問題は少ないだろう。しかし,それ以外の大多数のユーザー企業にとって,他社への導入事例やアプリケーションの数が少ないことは,Linux普及の大きなボトルネックとなるだろう。


人的コストまで考慮するとTCOが優位にあるとは言い切れない

 Linuxのアプリケーション別の利用率は「メール/Webサーバー」が64.8%でトップ。次いで「データベース・サーバー」34.4%,「ファイアウォール・サーバー」26.0%,「基幹業務サーバ」21.6%と続く。Web系などの「単機能サーバー」なら,サーバーにかかる負荷が軽いLinuxを利用することにメリットがある。しかし,基幹系システムなどクリティカル性の高い用途を考慮した場合,障害発生時のサポート体制などを考えると,身近に技術者がいないLinuxは選択しづらいだろう。

図2●Linuxの利用目的(回答数366)


 Linuxには「価格の安さ」「安定性」「軽さ」などのメリットがある。しかし,一般的に企業で使われているLinuxは「商用Linux」と呼ばれるもので,ライセンス価格は確かに安いが,開発,サービス/サポート費用,研修・教育などの人的コストを考えた場合のTCO(Total Cost of Ownership)は,Windowsと比べて優位にあるとは言い切れない。

 現実的にはLinuxがWindowsからリプレースして主流になるというよりも,情報系の単機能サーバーOSとしてWindowsと共存していくと見るのが妥当だろう。

 次回は,実際のユーザーからヒアリングしたLinuxの実態を取り上げる。

 なお,調査の概要をご覧になりたい場合は,第1回をご参照下さい。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノーク・リサーチ代表。矢野経済研究所を経て1998年に独立し,ノーク・リサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意とする。