◆今回の注目NEWS◆

◎旅券の電子申請は廃止を・財務省が予算執行のむだ指摘(NIKKEI NET、7月4日)
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060704AT3S0401104072006.html

【ニュースの概要】財務省は4日に発表した「予算執行調査」において、旅券(パスポート)の電子申請システムについて「旅券1枚当たり経費は1600万円」と指摘、廃止を含む見直しを要請した。


◆このNEWSのツボ◆

 財務省が「旅券の電子申請は一件当たり費用が1600万円にものぼり、廃止を含めた見直しを行うべきだ。」と提言した。

 確かに、一件当たりのコストが1600万円というのは、相当なものである。しかし、自治体行政の電子化に携わる人であれば、このニュースを聞いて、それほど「驚愕」する人は、多くないのではないだろうか……。

 程度の差こそあれ、多くの「電子化」プロジェクトは似たり寄ったりの状況に陥っているようだ。自治体にとって、申請や入札の電子化は「希望の星」から「悩みの種」へと変化してきているのが実態のように思われる。

 筆者が昨年末のデータから試算・推定した、電子申請の「共同利用プロジェクト」の利用費用は、一件当たり1万円~100万円であった。程度の差こそあれ、すべての自治体で実際の手数料収入をコストが大きく上回り、赤字たれ流しの状況である。そもそも、電子化の基盤とも言える、住基ネット、住基カード、公的個人認証のプロジェクト自体が、大赤字の状況で運営されているのは、ほぼ間違いないだろう。

 そういう意味で、「電子申請の無駄遣い」は、別に旅券業務だけに特別な現象ではない。むしろ、これを「旅券の電子申請プロジェクトの無駄遣い問題」として処理すると、大きな間違いを犯すことにもなりかねない。

 そもそも、一度発行されれば5年、ないしは10年間有効な旅券について、すべてをオンラインで処理できるわけでもない。受領の際などは窓口での授受が必要な手続きであるし、電子申請に当たっては、公的認証の利用など煩雑な手続きが必要である。これなら、もう窓口で申請した方が簡単だ…と思う人が多いのは当然ではないだろうか。この赤字垂れ流しは、100%近い確率で予見できていたはずなのである。

 むしろ問題なのは、電子化を進めるに当たって「何故、旅券業務?」ということが、どういう風に議論され、どういう風に決まったのか…ということではないか。そこには、「利用者の視点」が決定的に欠如し、行政の思い込みだけが存在したように思えて仕方ない。

 どの手続きを電子化すれば、どれだけの利用者が見込めるのか? 住民の利便は、どの程度向上するのか?そのためには、どういった申請フローとすることが望ましいのか? こうした「決定プロセス」事態を抜本的に見直すことが必要ではないだろうか?

 電子申請の利用率が40%を超すとされる、カナダ ケベック州では、PKIを電子申請に使用していないし、証憑類の郵送を廃止するなど利用者の視点が重視されているそうだ。(関連記事)

 今回の一件も「旅券電子申請」の問題として片づけるのではなく、「行政電子化」の進め方そのものを「利用者視点」で見直すことが必要なのではないだろうか。

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

東京大学経済学部卒。通商産業省(現 経済産業省)に22年間勤務した後、2000年7月に同省を退職。同年8月にコンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はウッドランド社長、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営コンサルティング、IT戦略コンサルティングまで幅広い領域で活動する。