忙しい。こんなに働いているのに,片付けても片付けてもやるべき仕事が減らない---日々そう感じているITプロフェッショナルは少なくないと思う。特にITproをお読みいただいている読者は仕事ができる方々が多いはず。顧客や上司や部下,他部署から頼りにされ,ますます仕事が増えてしまっていたりもするのではないだろうか。

 記者も常に仕事追われているクチだ。ただしこちらは逆に,仕事が遅いゆえにいつまでも片付かないというほうである。

 そんな折,ITpro Watcher連載していただいている芦屋広太氏より「仕事を成功させる[芦屋式]コミュニケーション5つの技術」という著書を出したという便りが送られてきた。読んでみたところ,まさに目からウロコ。当サイトの寄稿者なので若干手前味噌ではあるが,有能な読者の方々にも参考になると思うのでご紹介させていただきたい。

 「[芦屋式]コミュニケーション5つの技術」には「人を動かす技術」,「うまく断る技術」,「うまく説得する技術」,「部下を育てる技術」,「説得力のある文書の技術」という5つの技術が取り上げられている。特に興味深かったのは「うまく断る技術」だ。

相手を怒らせず,感謝されて断る技術

 記者は仕事が遅い上に気が弱いので,頼まれるとなかなか断れない。だが芦屋氏は「正しい仕事をするためには,うまく断ることが必要」と断言する。「断れずに変な責任を背負ってくる部下には烈火のごとく怒る」とまで言う。なぜなら,相手の依頼が妥当でなかったり十分練られていない場合は結局時間の無駄になる。時間を無駄にするだけでなく重い責任を背負ってしまうことになりかねず,それがマネジメントの観点で非常に怖いからだという。

 芦屋式の「うまく断る」とは「相手を怒らせず,それどころか相手に感謝されて断る」ことだという。具体的には,例えばシステム部に対しシステム化の検討を依頼してくる相手に対し,「投資に見合った効果が得られず,無理に推進すれば相手の評価が下がる」など,その依頼が自身に及ぼすデメリットをイメージさせることで相手に認識させる,といった具合だ。その際に重要なのは,お互いが対立するのではなく,同じ目標に向かって協力して問題を解決するという姿勢をとらなければならない,と芦屋氏はいう。

小手先ではなく本当の目的を考え,備えておく

 こうして見ると,「技術」と呼びながら,その実それは「小手先のテクニック」ではなく,「本来の目的は何かを考え,相手と自分がそれを達成するための適切な行動をとる」という当たり前の行動だとがわかる。ただし,好球を逃さず打ちかえすためには正しいスイングのイメージをつかみ,素振りをしておくことが必要だ。書籍を読んだりすることで,シミュレーションしておくことこそが大切なテクニックと言い換えられそうだ。

 あまり頼りにされない記者は,実はそれほど依頼されることが多くなく,だからこそ頼まれるとホイホイ受けてしまったりする。そんな人にも,ここに書かれた考え方は自分の仕事を整理するために適用できるかもしれない。「目の前にある仕事だからかかわってしまったが,それは本来の目的を実現するために適切な仕事なのだろうか。これを進めていったとき,本当にデメリットよりメリットのほうが多いのだろうか」と自問してみると,本当に大切な仕事は何か,その優先順位が見えてくるだろう。

本当に力を注ぐべき仕事は何か

 断ることが目的ではないと芦屋氏は言う。本来やるべき仕事により多くのリソースを振り向け,成果を高めるため断るのだと。

 そのほかの「人を動かす技術」,「うまく断る技術」,「うまく説得する技術」,「部下を育てる技術」,「説得力のある文書の技術」,いずれについても,「うまく断る技術」と同じように本来の目的を実現するための適切な行動と,それを具体的なシチュエーションに落とし込んだケーススタディが書かれている。芦屋氏の連載に何か感じるものがあるITpro読者の方であれば,本書を読んで得るものは大きいのではないかと思う。

●ITpro Watcher 芦屋広太 一つ上のヒューマンマネジメント


仕事を成功させる[芦屋式]コミュニケーション5つの技術
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