ここまでで紹介してきた製品は、言わば「アプリケーション型CMS」と分類することができます。CMSとして優れた機能を備えている半面、具体的な運用では、それぞれの“ツールの流儀”に従わなければならないという共通点があります。一方、CMSとして広く使われているものに、こうした製品とは対照的な、「プラットフォーム型CMS」と呼べる製品があります。こちらは“何でもできる(受け入れる)”、高い自由度が最大の特徴です。今回は、その代表格である「Zope」を例に、この両者の長所と短所について考えます。

アプリケーション型は“流儀に従う”


図 アプリケーション型CMSとプラットフォーム型CMSの違いの一例。ユーザの作業をシンプルに(簡単に)するということは、当然ある程度限定的なルールに従うことになる
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 ここまでで、NOREN、Movable Type、XOOPSと、3つのツールを紹介してきました。これらの製品は、CMSとして優れた機能を備えている半面、具体的な運用では、作業形態やコンテンツ(とテンプレート)の作り方、その管理方法など、さまざまな部分で、それぞれの“ツールの流儀”に従わなければならないという共通点があります。

 これは、大まかに言ってこれらのツールが、ユーザーを楽にしようという明確な方向性を具体的な機能として備えている──いわゆるアプリケーション型であるから、と言えます。一般に、アプリケーションとして目的が特化されていればいるほどユーザの操作はシンプルになりますが、結果としていろいろな意味で自由度はなくなっていくわけです。

 こうしたタイプのツールは、始めからその流儀(仕様)を前提に具体的なワークフローを計画できる、新しいサイトの立ち上げのような場合には、それぞれのメリットを最大限に活かした運用が可能です。

 もちろん、この連載で始めから述べてきたように、コンテンツとワークフローをともに効率的に運用管理するためにCMSを導入するわけですから、計画的に進めるのは当たり前のことです。

 しかし例えば、サイトの新規立ち上げやリニューアルといった節目のタイミングでなく、通常運用の中でCMSに移行しなければならない場合のように、実際には、必ずしもすべての条件が整った状態でCMS導入~運用ができないケースも、ままあり得ます。

 最も顕著な例が、導入にあたり、まず最初にコンテンツの準備(既存コンテンツの移植、またはCMS上での構築)に相当量の作業が発生することです。

 前述の通り、テンプレートの書式を含め、コンテンツの作り方はそれぞれの仕様に従う必要があり、ほとんどの場合、既存コンテンツをそのまま放り込む、というわけにはいきません。

“何でもできる”プラットフォーム型

 上記のタイプを「アプリケーション型CMS」とすると、対照的な性格を持つ、「プラットフォーム型と呼べるCMS」があります。その代表的な存在として広く使われてきたのが、オープンソース製品の「Zope」です。

 Zopeは多くの実績のあるCMS製品として知られていますが、その特徴を一言で説明するのが難しいツールです。というのは、独自のデータベース、スクリプト言語(Python)、FTPサーバ、Webサーバ、といった仕組みをすべて自前で備えており、使い方によっては、ごく基本的なコンテンツ管理から高度なアプリケーションサーバとしての利用まで、“何でも”できてしまうからです。

 こうした性格から、Zopeは“Web OS”と呼ばれることすらあります。実際、Zopeのデータベースは、ユーザーインターフェース上、まるで一般的なOSのファイルシステムのように使うことができるレベルです。このため、HTMLソースやメディアなどのファイルを、全く違和感なく扱いながら、同時に、自動的にデータベースを管理できます。

 もちろん、柔軟なスクリプト言語と組み合わせれば、テンプレートを使った典型的なCMSとしての利用が可能です。まさに、Webサイトに必要なものを完備したプラットフォーム、というわけです。

 Zopeのようなプラットフォーム型CMSの最大のメリットは、この非常に高い自由度だと言えます。見方によっては、ユーザーは運用管理についてあらゆることを先に決める必要がありません。その時々のニーズに応じて段階的に、かつ柔軟に利用形態を変えていくことができます。

 例えば、前述のように、CMS導入時に入念かつ厳密な体制作りが難しいような場合でも、プラットフォーム型CMSであれば、“とりあえずコンテンツをCMSに入れるところまでやりたい”といったニーズにも対応できるわけです。

自由度の高さと“親切さ”は両立せず

 アプリケーション型とプラットフォーム型は、これまでの回で述べたようなCMSのタイプ分類と同様に、それぞれにCMSとして向き不向きがあります。

 アプリケーション型CMSでは、前述の通り、ツールごとに運用の流儀があり、機能(や仕様)と表裏一体となっているため、これに従って使うのは必須の前提条件です。これが場合によってはデメリットとなってしまうことがあります。

 しかし半面、利用者がHTMLを全く分からなくても運用できたり、一般的にニーズの高い機能を分かりやすい(運用しやすい)形であらかじめ実装していたりといった明確なメリットがあります。いったん導入すれば、すぐに完成された恩恵を受けることができます。

 一方、Zopeのようなプラットフォーム型CMSは、前述の通り、その柔軟さが大きなメリットですが、例えば、アプリケーション型のように明確なニーズに基づいてあらかじめ備えられた“親切な”機能が備わっているわけではありません。

 段階的にその導入メリットを高めていくことは可能ですが、それは運用者のスキルの程度に比例します。場合によっては、必要な機能(仕様)を開発しなければならないこともあり得ます。

 アプリケーション型と対照的に、ツール固有の流儀に従わなくてもよいのがプラットフォーム型(のZope)、と言ってきたようですが、実はそういうわけではありません。Zopeの導入メリットを高めていくには、例えばスクリプト言語の活用をはじめ、よりコアなレベルで、まさにOSを使うようにその流儀に沿って使うことになります。

 全般に、ある意味で導入時、あるいはシンプルに使っていく分には敷居が低い半面、運用管理にあたるスタッフには、結果的に一定のスキルが求められる、ということが言えるでしょう。


星野 純 (ほしの じゅん) ■ 主にデザインやトレンドに関する市場調査などを行う日本カラーデザイン研究所で、ソフトウェア開発や企業向け情報資料の編集に従事。ちょうどそのころ、一般に開放されたばかりのインターネットと出会い、衝撃を受ける。「今この『デジタル革命』に立ち会わないでどうする!」と思い立ち、日経BP社で記者としてインターネットとデジタルパブリッシングを追いかける生活に転身。その後、Webプロダクション「WebBakers(ウェブベイカーズ)」を設立してWeb制作の現場に。以来、「CMSを使って、最小限のリソースで最大限のパフォーマンスを」を標榜しつつ活動中。