現在の勤務先で高い評価を得ていても、他社でも同じような評価を受ける保証は全くない。転職を考えている人にとって、最大の懸案事項は今のスキルが他社でも通用するかどうかである。自分のスキルを過小評価していると転職活動に乗り出せない。といって、買いかぶりすぎていると、転職後に失敗するのは明らか。どこでも通用するスキルを身に付けるにはどうすべきか。「井の中の蛙」にならないためのスキル習得の勘所を探った。
ITエンジニアであると、「転職」という言葉が頭をよぎることが少なくない。親しい同僚から転職の相談を持ち掛けられたり、同じ部署の先輩が突然、他社に移ったりすることは日常茶飯事だ。
IT業界に限らず、転職は世の中の流れなのかもしれない。だが、 転職というカードは、切る時期を誤ると、取り返しがつかない事態を招きかねない。
IT企業各社の社員研修の講師を務め、若いITエンジニアから転職の相談を受ける機会が多いエムズネットの三好康之代表は、相談者に対し「本当に転職なんかして大丈夫か。やっていけるのか」という不安を感じることが多い。
三好代表が「転職して頑張れよ」と賛同するケースは、わずかに2割程度にすぎない。実に10人中8人に対し「やめたほうがよい」というアドバイスをしている。とはいえ、転職を頭から否定しているわけではない。「相談者の約8割は転職という大切なカードを切る時期を間違っている」(三好代表)。
転職前に4つのスキルの確認をどれもある程度の水準が必要に
転職に失敗する原因のうち最も多いのは「他社で通用するスキルがない」ということである。転職の相談を受けたときに三好代表が真っ先にチェックするのはこの点である。他社でも十分に通用するスキルが備わったときに初めて転職を考えるべきだろう。
では、他社でも十分に通用するスキルとは具体的にどういうものか。ITエンジニアに必要なスキルについていろいろな分類があるが、三好代表は「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「プロセスマネジメントスキル」「ビジネススキル」の4つに分けて点検することを勧める。
●ITエンジニアに必要な4つのコアスキル すべてのコアスキルがある程度の水準に達している必要がある |
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この4つのスキルはITエンジニアに不可欠なものだけに、どれかひとつでも水準に達していないと、「技術力に申し分ないけど、コミュニケーションに問題が…」とか「口は達者だが、技術力はないよね」と陰口をたたかれる。
転職という言葉が頭をよぎったとき、4つのスキルがそれぞれある一定の水準を超えているかどうか、4つのスキルのバランスがとれているかどうか確認しておくべきだ。その結果、問題点を発見すれば、本格的な転職活動に入るまでに解消しておく必要がある。
4つのスキルを再確認すると同時に、三好代表は転職活動に入る前に「自分」を見つめ直すことも勧める。「抽象的な表現になるかもしれないが、『紙切れ1枚から見える自分』『第一印象で判断される自分』『他人にはわからない本当の自分』を再確認してほしい」と話す。
●転職活動の前に自分を客観的に知る必要がある これにより4つのコアスキルの水準も確認できる[画像のクリックで拡大表示] |
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「紙切れ1枚から見える自分」とは、履歴書や名刺などに記載される役職や肩書き、学歴、資格などである。書類選考では、これだけで判断される。
次の「第一印象で判断される自分」とは、初対面のときの最初の5分間のように極めて短時間に出る自分だ。
そして、最後の「他人にはわからない本当の自分」とは、知人にも家族にも知られていない、自分だけが認識している姿だ。「他人からは遊んでいるように見えるが、本当は努力家なんだ」とか「ドライな人間だと見られているが、義理人情に厚く、絶対に他人を裏切らない」というように、世間の評価とは違う自分がいるはずだ。
短時間で判断される「自分」それに備えることも大切に
転職時の面接、採用後の配属、新しい顧客との交渉など、転職をきっかけに新たな出会いがたくさんある。いずれも、長い時間をかけて本当の自分を理解してもらえるような環境下にはない。
言うまでもないが、転職活動で出会う人は誰もあなたの「本当の姿」を知らない。まずは「紙切れ1枚から見える自分」、「第一印象で判断される自分」で勝負しなければならない。いくら「本当の自分」に実力があっても、「紙切れ1枚から見える自分」と「第一印象で判断される自分」が弱ければ、面接時はもちろん、転職後の配属先や顧客の引き継ぎのときにも大きなハンディを背負う。
自分を見つめ直すと、先に述べたスキルが現在どのくらいの水準に達しているかおおよそ把握できるはずだ。例えば、テクニカルスキルがあれば、資格のいくつかは取得しているはずだから、それらを履歴書に記載することができる。4つのスキルを磨いていれば、「紙切れ1枚から見える自分」と「第一印象で判断される自分」はそれなりに向上する。
三好代表は「転職を考える前に、もう一度、自己啓発に惜しみなく力を注いできたかどうか自問自答してほしい」と語る。IT業界は1つの技術にしがみついていれば生き抜けるような甘い世界ではないからだ。実際、他人から尊敬される優秀なITエンジニアには、いわゆる「技術転換」がうまいという共通点がある。ITエンジニアは、程度の差こそあれ、必ず新しい技術の習得が必要になる。IT業界では、新技術の“仕入れ”は避けて通れない。
それでは、他社でも通用する水準に4つのスキルを高めるにはどうすればよいのか。具体的に見ていこう。