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野村ホールディングス 中村昭彦
IT統括責任者(CIO)常務執行役
 今年5月にネット専業証券「ジョインベスト証券」を開業した野村ホールディングス。同社のグループは、今年4月に情報システムの開発・運用体制を強化し、CIO(最高情報責任者)の役職を新設した。グループ全体における情報システムの全体最適を目指すことが狙いだ。CIOとして白羽の矢を立てられたのが、中村昭彦氏である。中村氏は野村証券のCIOとして、3年の月日と300億円の費用をかけて証券会社の基盤である受発注と決済のシステムを刷新してきた。

 中村CIOは2つの基盤システムの刷新を振り返り、「各部門の共通項をくくりだすことよりも、違いを理解することが重要」だと話す。中村CIOは、入社してからホールセール部門で債券のトレーダーを15年間、リテール部門でも3年間の経験を積んだ。ホールセールは機関投資家、リテール部門は個人の投資家を中心としたビジネスで、特性が大きく異なる。「システム部門というのは、会社全体を見る必要があり、両方を経験させてもらえたことが非常に役に立っている」。両部門の特性の違いを理解したことで、全体のシステムをどのように組み立てていくかが考えられるようになったという。

 システムを構築していくうえで進ちょく管理がCIO(最高情報責任者)として最も大変だったと振り返る。週に1回、開発を担当する野村総合研究所(NRI)の担当者と綿密な打ち合わせをすることで進行を管理していた。中村CIOは、開発ベンダーとの関係を「知恵の協業」だと語る。

「当社はIT専門で人を雇っていない。証券会社側の役割は、お客様の視点に立って、最適なサービスをどのように提供していくかを徹底的に追求すること。NRIには、技術の変化や進化に対応して、『技術発』の提案をしてほしい。我々には、すべての知恵はありません。『ビジネス発』である我々と『技術発』のNRIが一緒に議論することで、知恵の協業を実現したいのです」。だからこそ、ベンダーには、技術力とコミュニケーション力を備えたIT人材の育成を要望したいという。

 野村證券の全体最適に区切りをつけた中村CIOは、グループ全体の全体最適へと領域を広げた。同グループには、国内営業や海外の機関投資家を対象にした部門など、合計5つの部門がある。「グループ全体を見渡してホールディグス(持ち株会社)全体に共通なシステムインフラを運用したり、システムの基盤の整合性を考えることが自らの役割」だと話す。各社の違いを理解しながら、リスク管理といったITのガバナンス体制を構築していく。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
 ビジネス戦略とIT戦略のベクトルを合わせることだと考えています。多様なビジネスニーズに対応するため、多くのシステム開発が同時に進行しています。そのため経営トップとの会話を通して、中期的・全社的な視点からビジネス戦略とIT戦略のベクトルを合わせるよう努めています。

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・時代や社会の変化をとらえた、中期的な視点からの提言
・技術力とコミュニケーション力を備えたIT人材の育成

◆最近読んでいる雑誌、新聞
日本経済新聞
朝日新聞
日経ビジネス

◆最近読んだ本
仕事に関係の無い物を選んで読んでいます。
・『ダ・ヴィンチ・コード』(ダン・ブラウン著、角川文庫)・・・話題の本なので
・『星々の舟』(村山由佳著、文藝春秋)・・・ 2003年の直木賞受賞作品です
・立原正秋の作品集いろいろ・・・若いころから好きな作家です

◆勉強会やセミナーへの参加
 異業種との会合やセミナーなど時間が許す限り参加しています。

◆ストレス解消法
 ストレスは生きる糧だと達観しています。