ウィルコムが7月下旬に発売する新スマートフォン「W-ZERO3[es]」を発表した(関連記事)。W-ZERO3[es]は,2005年12月に発売し4月末時点で15万台を出荷した「W-ZERO3」の後継機に当たる。この台数はPDA(携帯情報端末)や,PDAと携帯電話端末が一体化したスマートフォンとして,久々のヒット商品となった。

 W-ZERO3が追い風になったのか,NTTドコモもスマートフォンの投入を計画している(関連記事)。しかし日本ではPDAとスマートフォンはこれまで苦難の道を歩いてきた。先鋭的な端末はそこそこ売れるが,大ブレークに至らないのだ。

 筆者は取材の際に,よくこの理由について意見交換をするのだが,その中で一番説得力があったのは「ノートパソコンと携帯電話がここまで定着した日本では,どっちつかずのスマートフォンやPDAを使うニーズは育たない」という意見。携帯電話の契約数が総計9000万を突破し,電話機はメール機能は当たり前でフルブラウザを搭載し,独自の“親指入力文化”が出来上がった日本の状況では,あえてスマートフォンやPDAを使おうというユーザーは少数派になってしまうというのだ。

 サイズ面でも問題がある。弊誌編集部にはW-ZERO3もNTTドコモの「M1000」もあるが,どちらも通常の携帯電話機と同じようには持ち歩けないサイズ。これら端末を街中で耳に当てて通話をすることには,筆者も少なからず躊躇する。そこにパソコン並みの使い勝手を求めるなら,大きさや重さを我慢してでもノート・パソコンを使った方が効率は良い。

 スマートフォンやPDAを考えるうちに筆者が思い出したのは,ネットワークにつながる専用端末が,90年代後半に構想を含め次々に現れては消えていったという事実である。例えば,ダウンロードした新聞記事を蓄積し閲読を可能にする「電子新聞」,書籍やマンガを液晶画面で読む「電子ブック」−−。一時期ブームを巻き起こしたNTTドコモのメール端末「ポケットボード」も専用端末に分類される。

 どれも専用端末の上で表示できるコンテンツやサービスに課金するビジネスモデルだったが,最初にユーザーが支払う端末の価格が大きな障壁になった。それが今ではこれらの機能は形を変えながら,すべて携帯電話機で利用できるようになっている。背景には,販売奨励金のおかげで携帯電話機が本来の値段よりも安く手に入るという事情も働いているのかもしれない。結局,99年にNTTドコモが「iモード」を投入して以来,スマートフォンやPDAの苦闘の歴史は,専用端末の機能が携帯電話機に取り込まれる歴史とまさに重なっているのだ。

 今回登場するW-ZERO3[es]は,端末サイズの課題はクリアしている。形状はストレート型の携帯電話機に近く(正しくはW-ZERO3[es]はPHS端末だが),従来のスマートフォンやPDAに比べて小さい。小型化/集積化技術の進化が大きな理由なのだろうが,「スマートフォン/PDA」がサイズ面で「携帯電話機」に歩み寄ったとも見える。

 こうしてPDAやスマートフォンが進化するほど,クローズアップされるのは結局,価格の問題。携帯電話の販売奨励金制度が大きく変わるなど外部要因に変化がないと,今の状況はなかなか変わらない。