綾南幼稚園が試験運用しているシステムは、アクティブ型IC タグとリーダー/ライターの開発・販売を手がける「キュービックアイディ」(キュービックID)と、アプリケーションソフト開発の「システムライツ」が共同開発した。システムライツ取締役の佐野明氏によると、「今回のシステムを開発するために、国内外の複数のメーカーが販売するアクティブ型IC タグを調べた。その結果、費用対効果が良いキュービックID の製品を採用することにした」という。例えばIC タグの単価は2000円だが、それでもほかの製品より安かったようだ。システムの導入費は、IC タグ270個とリーダー/ライター2台、管理用パソコン用ソフト一式で約160万円に抑えた。園長の田中氏は、「登降園管理業務の負荷軽減や園児の安全管理に対する必要なコストと考えている」という。

 ICタグに内蔵したボタン型電池の寿命は、1年を保証している。電池の寿命を長くするには、ICタグが電波を発信する時間間隔を長くしたり、ICタグの電波の出力を下げて読み取り距離を短くしたりすれば良い。しかしそうすると、ICタグを持った園児が正門などを通過したときに、読み取りミスが発生しやすくなる。そこで今回のシステムでは電池の寿命と読み取り精度の兼ね合いでICタグが電波を発信する間隔を3秒に、ICタグとリーダー間の最大読み取り距離を7mに設定した。

 ただし、この条件で読み取りミスが発生した場合に備えて、教員が手作業で確認する作業を残した。具体的には、システム上で「欠席」になっている園児に対して念のために、「本当に欠席なのか」、「登園しているのに、読み取りミスによって欠席扱いになっているのか」を、クラス担任の教員が確認することにした。

業務改善を目指し適用範囲を拡大へ

 今回の登降園管理システムは、延長保育や学童保育の管理にも活用できる。延長保育とは、正規の保育時間をすぎてからも園児を預かる制度である。学童保育とは、小学生の児童を放課後に幼稚園などで預かる制度だ。延長保育を利用する園児や学童保育を利用する小学生に、今回と同じアクティブ型ICタグを持ってもらえば、保育時間の集計や保育料の計算などが自動化でき、職員の業務負荷が大幅に削減できるメリットがある。

 綾南保育園は現在いずれの制度も導入しているが、現時点でこれらの業務管理に今回のIC タグシステムを利用する予定はないという。延長保育と学童保育の管理は2004年から、プリペイド方式の磁気カードシステムを使って自動化しているからだ。「現在使っているシステムは信頼性が高く、トラブルもほとんど発生していない。今のところ、ICタグシステムに切り替える必要はない」(園長の田中氏)と考えている。

 ただし今回のシステムの適用範囲を、ほかの業務に拡大する可能性はあるという。例えば、給食の発注業務である。綾南幼稚園では昼食は弁当の持参が原則だが、弁当を持って来ることができない園児などのために、仕出し弁当を取り寄せている。昼食時間に間に合わせるためには、毎日午前9時30分ごろまでに必要な数を注文する必要があるが、その時間は出欠確認の真っ最中である。注文を忘れるなどの間違いが多かった。IC タグを使った今回の登降園管理システムを給食の発注業務に適用して、注文リストの作成を自動化できれば、注文ミスを減らすなど業務の改善効果が期待できそうだ。

 また園児が持つICタグを読むことで、「送迎バスが何時に幼稚園を出発したかを、保護者の携帯電話機にメールで伝えることも考えられる」(園長の田中氏)という。送迎バスに乗せてはいけない園児を間違って乗せたときに、それをチェックする使い方もあり得る。このように、業務の改善効果が期待できる分野には、適用範囲を積極的に広げていく考えだ(終)


■プロフィール
学校名:学校法人文伸学園綾南幼稚園
理事長:田中文雄
園長:田中伸宜
所在地:神奈川県綾瀬市上土棚中1-10-6
園児数:230人
常勤教員数:27人





本記事は日経RFIDテクノロジ2006年3月号の記事を基に再編集したものです。コメントを掲載している方の所属や肩書きは掲載当時のものです。