6月後半,若手の記者に同行して高速電力線通信(PLC:power line communication)の取材に回った。日経NETWORK8月号に掲載予定の特集記事をまとめるためだ。

 高速電力線通信に関しては,ITproでも多く取り上げられているように,6月6日,総務省の高速電力線搬送通信設備小委員会の最終会合を経て,6月29日に,総務省情報通信審議会情報通信技術分科会が答申を出し,実用化に向けた議論は一応の決着を見た。高速電力線通信用のモデムにおいて,漏えい電波の元となる電流(コモンモード電流)の強さの許容値を規定したのだ。

 しかし,ご存知の読者も多いと思うが,ここに至るまでには,PLC推進派とPLC反対派の間で激しい駆け引きが繰り広げられた。推進派はPLCモデムの開発を進める通信機器メーカー各社,反対派はアマチュア無線の関係者や短波ラジオ局などだ。両者の意見は大きく食い違い,答申が出されることで議論が決着するまで平行線をたどった。

 いや,決着した今でも平行線のままなのかもしれない。

 日経NETWORKは,ネットワーク技術を解説する雑誌なので,高速電力線通信の是非を問うような記事をまとめるわけではない。それでも,中立的な立場で記事を書くために,6月後半の高速電力線通信の取材ではもちろん,推進派と反対派の両方の方々にお会いし,いろいろと話を聞いた。

 記事でまとめることはないにせよ,記者である以上,当然ながらこの問題の本質がどこにあるのかを見極め,正解がどこにあるのかを考えてしまう。反対派の方々の意見を聞いて「なるほど」と思う一方,推進派の方々の意見を聞けば「まさしく」と思ってしまう。取材をすればするほど,「これは解決が困難な問題だ」という感想が強くなる。

 筆者は今,高速電力線通信の取材メモから両者の言い分を列挙し,見比べてみようと思っている。そして,自分なりの結論を出すつもりだ。それと同時に読者のみなさんにも,この問題を考えて欲しいと思う。

 制度的にはすでに結論は見えている。しかし,それが本当に正しい方向性にあるかどうか,考えてみても損はないだろう。