かつてWindowsにはライバルと目されたOSがあった。米IBM社のOS/2である。もともとは米Microsoft社と共同で,MS-DOSの「次」を担うOSとして開発された。CPUのメモリー保護機能に対応し,マルチタスク処理を実現したOSである。ところが,Windowsにその地位を奪われ,市場からは消えてしまったかのように見える。OS/2の技術支援,製品企画を担当し,現在もサポートを続ける人物が日本IBMソフトウェア事業パーベイシブ・コンピューティング営業部 製品企画担当の首藤薫氏である。首藤氏にOS/2の歴史と現在の状況を聞いた。

 IBMの初めてのパソコン「IBM PC」は,IBMがアーキテクチャを担当し,各パーツを外注して作られた。CPUは米Intel社,OSはMS-DOSを採用した(IBMの製品名はPC-DOS)。MS-DOS/PC-DOSはOSのカバー範囲としては不十分で,マルチタスク機構やGUIを備えていなかった。そこでPC-DOSの次なる本格的なOSとして「OS/2」をMicrosoftと共同で開発することになった。

 OS/2は1987年に発表された。IBMが同時に発表したPS/2(Personal System/2)というアーキテクチャのパソコン用OSだった。首藤氏はこの年にIBMに入社。1994年からOS/2の上で動くアプリケーションの開発に携わった。

高機能だが重いのが致命的

 1988年に発表した1.1版ではGUIに対応し,1.2版までは計画通り共同で開発した。だが一方でMicrosoftは1990年にWindows 3.0を発表。当初はWindowsをOS/2に統合していくとしていたものの,Windows 3.0が広まっていくにつれてOS/2の立場は弱くなっていった。

 OS/2は本格的なマルチタスクOSであり,なおかつアプリケーションが使用するメモリー空間を拡大させたOSだったが,当時のパソコンで動作させるには重かった。一方のWindowsは完全なマルチタスクではなかったが,OS/2よりは軽く,DOSアプリケーションを複数動かすことができた(OS/2は1個だけ)。こうして,Windows 3.0のユーザーが増え,アプリケーションが多く作られるようになっていった。MicrosoftはWindows3.0の成功を確信し,OS/2と決別してWindows NTの開発に力を注ぎ始めた。

 IBMはWindowsに対抗するため,1994年「OS/2 Warp V3」を投入した。“Warp”は開発プロジェクトの名称で,当時の会長L. V. Garstner氏の意向で製品名にも採用されたという。Warpの売りは「WindowsアプリケーションをWindowsより快適に動かす」こと。しかし別途Windowsのインストールが必要で,手順も煩雑だった。そこでWindowsを同時に組み込む「OS/2 Warp V3 with WIN-OS/2」も出荷した。だが所詮はWindowsの市場を当てにした戦術であり,Windowsを超えることはできなかった。

10社強のシステムで稼動中

 Windows 3.0に市場を席巻されてしまったOS/2だったが,それ以降も普及しなかった原因は大きく二つある。

 一つ目が,32ビット化が遅れたことだ。IBM OS/2 V2.1から32ビット化を進めたものの,完全に32ビットに対応したのは1996年に発表したOS/2 Warp V4.0だった。32ビット化が遅れた一方で「IBM OS/2 V1.xでユーザーが作ったアプリケーションは16ビットのものが多かった。このようなアプリケーションを持つユーザーもサポートすべきだというポリシーがあった」。OS/2 Warp V4.0を投入したときには,既にWindows 95が爆発的に売れていた。

 二つ目が,キラー・アプリケーションがなかったこと。「OSが良いだけではだめで,その上で動くソフトが良くなければ普及しない。ソフトとOSの連携という点でもWindowsはよくできていた」。

 現在,OS/2は「組み込み用として使われている。24時間ノンストップで稼働するような制御用のコンピュータなどに搭載されている」。首藤氏が考えるOS/2の意義は二つある。「パソコンを企業で道具として使ってもらえるようになったことと,世の中で基幹となるシステムで使われたこと」だ。OS/2の組み込み向けにサポートは2006年12月31日まで続けるという。