あの負けん気の強い富士通が、5月15日に発表したメインフレームに関する限り、今ひとつ精彩を欠いている。その理由は明白だ。新機種「GS21-900」は、奇しくもIBMが36カ月前の5月14日に発表した「zSeries990」と性能が同じ450MIPS(MIPS:毎秒100万回の命令実行)マシン。IBMの3年も前のセピア色した“旧機種”では、元気が出ないのも道理である。

 GS21-900の本来の標的は、IBMが10カ月前に発表した「z9-109」のはずである。z9-109は、CPU性能がzSeries990の1.35倍ながら600MIPSを叩き出す。しかも、筐体内にメインフレーム用としてCPUを最大54個搭載し、トータル1万7800MIPSの拡張性を持つ。これに対するGS21-900の性能は、従来機GS21-600の1.5倍と頑張ったがz9-109の75%にとどまり、筐体内には最大16個まで。トータル性能は4500MIPSだ。

 しかし、富士通サーバー事業担当の山中明サーバーシステム事業本部長は、涼しい顔でこう話す。「IBM(z9-109)との性能差は認めるが、この性能で顧客の信頼性要求やソフト資産継承ニーズは十分満たせる。もはや単純にIBMメインフレームと性能で争うことはしない。メインフレーム市場は今後縮小するからだ」。同本部長は顧客ニーズや市場原理に基づく判断であることを強調する。縮小する分野に過剰な資金を投じて過剰な性能を開発するべきではない。その分、顧客向けの製品価格に反映させた、というのが言い分。「何も足さないが、何も引かない」という戦略だ。

 今の富士通メインフレームは、PRIMEQUESTやPRIMEPOWERなどのオープンサーバーで先行開発したテクノロジーを使って作る。まずメインフレームに先端技術を開発し、それを他のサーバーに流用するIBMとは開発手順が大きく異なる。

 富士通は1970年から、コンピュータ開発の鉄則として、「IBMに先行発表は許すものの、対抗機は必ずIBMマシンを性能で凌駕する」という追撃者の黄金パターンを踏襲してきた。メインフレームに関する限り、前機種GS21-600までこのDNA(遺伝子)が脈々と生きていた。GS21-600は対抗機となるIBMのz900を性能で30%上回っていたからだ。IBMはこれに応じて5カ月後にGS21-600と同じ300MIPSのz900-turboを投入し、1年後の03年5月に450MIPSのzSeries990で引き離している。

 富士通の戦略転換は、GS21-600から同900に至る4年間で実行に移された。具体的にはGS21-600の発表7カ月後の02年9月に発足した、オープンサーバーでメインフレームと同等あるいは凌駕する信頼性や性能を備えた、現在のPRIMEQUESTとなる「ビジネス・クリティカル・コンピューティング」開発プロジェクトからだ。CPU(Itanium)を米インテルから調達し、先端の技術を結集したチップセットなど周辺技術を独自開発する方式。責任者が山中本部長であった。

 富士通の05年度のメインフレーム売り上げは、02年度の680億円から40%強減少している。この傾向はIBMとて抗うことができない。zSeries990投入後4四半期連続で2桁成長したものの、次の4四半期は連続マイナスに転じ(うち2ケタ減が2期)、たまらずz9-109を投じた結果、05年第4四半期は5%伸びたが翌06年第1四半期は6%減。プラス成長が続かない。メインフレーム顧客が固定しつつも総じて減少する“縮小パターン”に陥っているのではないかとみられる。

 富士通の戦略転換によって、今後のメインフレームは、(1)グローバル巨大企業向けのシステム統合やトラステッドコンピューティング強化に向かうIBMと、(2)日本のいわゆる「信頼性と資産の継承」に応えるもの、の二極に分化した。富士通は(1)に対してはPRIMEQUESTで挑む。(2)のケースはそこそこの性能でいい。欧米市場ではCPU数十個のメインフレームが使われているが、日本では数個が実態だからだ。そして(2)は、移行手段の充実とシステム信頼性の成熟で、今後10年程度かけてオープンシステムに緩やかに引き継がれるものとみられる。