文・清水惠子(中央青山監査法人 シニアマネージャ)

 実践編の第1回目はSWOT分析について説明したが、今回は「行動成功要因」(政府のEAでは「主要成功要因」)の“ご利益“について記述したい。行動成功要因分析の作業方法は、総務省から公表されている自治体EA「業務・システム刷新化の手引き」を参考にすると良い。この中に行動性向要因分析の作業方法と埼玉県川口市の事例が紹介されている。

 行動成功要因の説明に移る前に、第1回で解説したSWOT分析によって何が見えるかを、ここで再確認しておきたい。SWOT分析は「現状の姿を認識すること」であるが、「現状の姿」は、それを見る人の考え方や立場によって違ってくる。例えば川口市でも、IT推進会議(部長級)とIT推進委員会(課長級)では、SWOT分析を行って見えてきた現状の姿の認識が異なっている部分があった。第1回で紹介したSWOT分析の資料を見ると、「人口増加」という要因について、IT推進会議では機会(O:Opportunity、機会)と捉え、IT推進委員会では脅威(T:Threat、機会)と捉えている。人口増は街に活気を与える反面、住民の増加により治安面に不安が生じる可能性があるなど、受け入れ態勢についての問題点をはらんでいる。そして、このどちらも近年の人口増という川口市の実体を反映した「現状の姿」である。

 SWOT分析の際には、同じ項目が、機会と脅威の両方に登場することは別に不思議ではない。ひとつの事象は複数の側面をもつ。SWOT分析の結果として見えてきた機会をさらに生かし、脅威を機会に変える、また、強みをさらに強化し、弱みを克服する具体策が、行動成功要因である。人口減少に悩む自治体もある中で、人口の流入は川口市の特色であり、単に数の増加と言う量の問題だけではなく、旧来からの住民と新規参入の住民の意識の違いといった質の変化への対応を求められることになる。

■行動成功要因の作成・分析方法と、その“ご利益”

 多くの場合、組織は漠然とその問題点を感じて、対策を立てようとするが、ともすると、他の模倣になったり、その時々の時流されてしまったりで、「本来、その組織において何が本当に必要な行動なのか」、言い換えれば「組織体の目的を達成する行動が何か」を理解できない場合がある。SWOT分析の後に、そのビジョン/ミッションに従って行動成功要因を導き出す過程においては、「因果関係」がキーワードとなる。機会を生かし、脅威をなくし、もしくは機会に変える、強みを強化し、弱みを克服する行動は、最終的に、当初の目的に因果関係の連鎖によってたどりつくことになる。

 参加者がそれぞれ成功要因を記載したカードを数枚作成することにより、いくつかの行動成功要因を提示するが、これらのカードを「A」の行動の結果が「B」になるような順番に並べることにより、最終ゴールにたどりつくことができる。カードの因果関係が途切れたら、その間をつなぐカードを追加することになる。この因果関係の連鎖が重要であり、ここに一連の流れができることが、“ご利益”である。流れが途切れたら、カードに提示された行動は最終ゴールにたどりつけない。

 再び川口市の例に戻ろう。例えば、川口市のEA事業の目指す三つの成果のうちの一つである「市民満足の向上」は具体的にはどのような具体的な行動によって満たされるのか? 川口市はこのSWOT分析、行動成功要因の分析に先立って、実施した市民満足度調査の結果も分析の作業の参加者に配賦している。これにより、市民が現在のサービスに満足しているか、どのサービスを重要と考えているかの分析がされている。市民満足度調査は住民がどのようなニーズをもっているかを知る手がかりとなる。他のどの自治体でもなく、川口市民が求めるニーズに対しても配慮した川口市が実施すべき具体的な行動を起こすことが、行動成功要因の分析によって明らかになる。これも“ご利益”である。

 SWOT分析では「人口増加」についての区分が異なっていた川口市のIT推進会議とIT推進委員会だが、「市民満足度の向上」のための行動成功要因の優先付けを行った結果、ともに「防災、防犯対策を進める」ことを優先度が最も高い要因として挙げている。これも興味深い結果である。外部の要因を反映した、つまり、「市民満足を高めるとはどういうことか」についての具体的な答えが「防災、防犯対策を進める」だったというわけである。

■個々の行動成功要因をつないで成果に至る

 行動成功要因として出された行動の間の因果関係をつなぐことは、くどいようだが、最終ゴールにたどりつくということである。中途半端な行動は、その行動だけで次につながる展開はない。行動成功要因分析が役にたたなかったといわれる事例の多くは、行動成功要因として列挙された項目が因果関係の検討が十分にされず、単なるスローガンの羅列になり、ひとつ、ひとつの成功要因がそれ1個だけの単独の行動で終わってしまい、次の展開への連鎖が理解されなかった場合である。また、漠然とした精神論や抽象的な成功要因は、行動成功要因ではない。行動とは具体的に何をするが明確でなくてはならない。そして、簡単にできることではなく、実行に多少の困難が伴う行動が実際の問題点を解決し大きな成果を導くことが多い。

 そこで、行動成功要因をさらに具体的なアクションプランに落としていく作業が必要になる。アクションプランでは選択した行動成功要因をさらに分類していく。行動成功要因の中で、すぐに着手できること、重要で直ちに着手すべきであるが予算等の要因ですぐには実行に移せないことなど、実現可能性と重要性を分類し、さらに今期に着手すること、次期にやることなどの優先順位を付けて分類、最終的な成果の段階的な実現を目指すことになる。このとき、重要度が高い成功要因と認識されても予算等の関係で時間がかかるもの、設備等の整備に時間がかかるものなど、重要度とそれがすぐにできるかは別の問題となる。また、主要成功要因は「○○する」という形式で記載されているが、これらは大枠の記載であってそこからさらに詳細具体的な行動に落としていくことになる。これがアクションプランである。

 次回は、川口市が個別業務で展開したアクションプランを紹介する。

清水氏写真 筆者紹介 清水惠子(しみず・けいこ)

中央青山監査法人 シニアマネージャ。政府、地方公共団体の業務・システム最適化計画(EA)策定のガイドライン、研修教材作成、パイロットプロジェクト等の支援業務を中心に活動している。システム監査にも従事し、公認会計士協会の監査対応IT委員会専門委員、JPTECシステム監査基準検討委員会の委員。システム監査技術者、ITC、ISMS主任審査員を務める。