前回に続いて,新たに導入したがレイムダック化しているダメシステムの甦生について,現象面からの把握と検討を試みたい。IT導入成功要件の視点からテーマを単純化して取り上げるのに比べて,現象面からアプローチすると,要件が複雑に絡み合っていることが分かり,議論がより実態に近くなる。

 前回,前々回は,ダメシステムを現象面から捉えたときの基本的な2つのケースの1つ,「旧業務に新システムを適用しただけ」というケースを取り上げた。今回からはもう1つのケース,新システムが導入されたが,その一方で既存のレガシー・システムや部門単位のローカル・システムが生き残っているケースについて検討する。

 この場合,さらに2つのケースに分けられる。

1.新システムは一応稼働しているが,一方でレガシーやローカルなシステムが密かに使われている。
2.新システムが全く稼働せず,レガシーやローカルなシステムが跋扈(ばっこ)している。

 今回は,ケース1について実例を挙げて検討する。


説得力あったCIOの単純明快な方針

 ケース1の場合,基本的にはレガシー・システムやローカル・システムをたたき出し,葬り去らなければならない。オーソドックスなやり方としては,どうしてレガシーやローカルなシステムが密かに使われているのか,その原因を調査して対策を打つ。しかし,現実にはユーザー要求を100%反映させることは困難であり,システムは要求の最大公約数で構築されていることを念頭においた上で,調査・対策することが肝要になる。従って多くの場合,最終的には有無を言わさず,レガシーやローカルなシステムを思い切って葬り去ることを決断しなければならない。

 しかし,実際には理屈どおりには行かない。レガシー・システムやローカル・システムを葬り去るという「最終決断」に至るまでには,紆余曲折がある。理屈どおりにレガシーやローカルなシステムを葬り去ることができたケースと,現場の実態に合わせて当面の間,生かさざるを得なかったケースを見ながら,対応の仕方を検討してみよう。

 まず,レガシー・システムやローカル・システムを葬り去ったケースである。パソコン周辺・応用機器の中堅メーカーC社は,BI(Business Intelligence)の考え方を取り入れて,戦略情報システムを構築した。この戦略情報システムは,製品開発計画,予算編成,予算執行を管理する予実算フォローアップ,営業支援,受注売り上げ,債権債務・原価といった管理サブシステムで構成される。しかし稼働後2年を経過して,なおレガシーやローカルなシステムが隠然と使われていた。

 例えば,戦略情報システムの稼働後も,設計者は従来通り,製品開発計画の関連情報をパソコンで自分流にメンテナンスをしていた。開発状況の詳細を自分以外に敢えて知らせる必要はない,手元データを手作業も交えてメンテナンスする方が便利だという理由からである。このため,開発状況をオンラインでリアルタイムにチェックできるはずの画面も,定期的に作成される開発計画書・進度フォローアップ表も実情を反映しなくなった。

 あるいは,ある部門では予算や受注・売り上げの管理単位が自部門や自分の尺度に一部合わないという理由から,手元のパソコンを使って資料を作り直していた。

 C社の人事異動で新たに就任したCIO(最高情報責任者)はこれらの事実に気づき,レガシーやローカルのシステムを一切認めないことにした。当然,現場からの強い反発があった。しかし,CIOは集団生活の中では理屈や利害を抜きにして守らなければならないルールというものがあり,車が右を通ったり,人が左を通ったりすることが禁じられているのと同じことだと説いた。そういう割り切った考え方は,意外と説得力があった。

 ルールを徹底させるために,C社では監査チームを編成し,定期的に現場をフォローアップした。監査チームのメンバーは,各現場でデータ入力に携わる担当者や,その受益部門の実務者から選んだ。そして,監査結果を監査される人達の賞与に反映した。こうした執拗(しつよう)な監査フォローアップを続けることで,C社はとうとうレガシー・システムとローカル・システムの駆逐に成功した。

 新CIOの前身は生産管理部長で,コンピュータには全く疎かった。むしろ,システムについて下手な理屈をこねないで単純明快な方針で臨んだことが幸いしたのだろう。

 実務者で編成したチームによる監査活動は,結果的にチームメンバーである実務者自身の教育にもつながり,モラールアップにもなった。新システム稼働のためにはレガシー・システムやローカル・システムの存在を認めるべきでないということを,彼ら自身の問題として捉えることができたからだ。

 次回は,レガシーやローカルなシステムを簡単には切り捨てられなかった例について考える。


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■増岡 直二郎 (ますおか なおじろう)

【略歴】
小樽商科大学卒業後,日立製作所・八木アンテナなどの幹部を歴任。事業企画から製造,情報システム,営業など幅広く経験。現在は,nao IT研究所代表として経営指導・執筆・大学非常勤講師・講演などで活躍中。

【主な著書】
『IT導入は企業を危うくする』,『迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件』(いずれも洋泉社)

【連絡先】
nao-it@keh.biglobe.ne.jp