ビフォー・ アフター

 ハンバーガーチェーンの「モスバーガー」を展開するモスフードサービスは、原材料の調達先との間で在庫や販売情報などを共有するシステム「Mos-Nile」を開発し、取引の95%を占める調達先との間で利用している。物流センターや店舗の在庫情報や、店舗での販売動向までを取引先が確認できるため、取引先が追加生産のタイミングや量を適切に判断し、過剰在庫や品切れの削減に貢献した。平均で約2割、取引先によっては7割の在庫削減を実現し、取引先との間でやり取りしていたファクスもほぼ全廃した。

 加工食材に続き、日配品であるパンや野菜の調達にも利用を広げ、契約農家が野菜の生産過程で使用した栄養素や除草剤に関する情報もMos-Nileで管理し、トレーサビリティーを確保する。「食の安全」が厳しく問われる時代に、供給者としての責任を果たせる仕組みを確立した。


生産管理の徹底により、品切れを防ぐと同時に食の安全も確保
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●食材メーカーと販売、在庫情報を共有し、在庫削減や欠品防止を実現
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●2割以上の在庫削減に貢献
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 カツとカレーをライスプレートで包んだ「ライスバーガーカツカレー」、10種類の素材を重ね合わせた高級バーガーの「匠味(たくみ)十段」。モスフードサービスが全国に約1460店展開する「モスバーガー」はユニークなメニューや季節の食材を生かした期間限定のキャンペーン商品で多くのファンを引き付ける。

 豊富なメニューを支える原材料は約500品目に及び、在庫管理は煩雑を極めていた。パティ(肉)やソースなどの加工食品は、メーカーなどから全国13カ所の物流センターに運び、店舗からの発注に応じて配送する。商品統括本部長兼商品本部長の堀田富雄上席執行役員は、「キャンペーン商品や新商品の投入時は先の売れ行きが読みにくいため、メーカーでの生産が遅れて店頭で品切れを起こしたり、逆に作り過ぎて物流センターで在庫が過剰になったりということが多々あった。また地方によって商品の売れ行きが異なることも多いため、センター間の在庫移動コストもかかっていた」とその苦労を語る。

 これを解決するため開発したのが「Mos-Nile(モス・ナイル)」と呼ぶ生産管理システムだ。インターネットを利用してモスの本部と13カ所の物流センター、57社の取引先を結び、商品の発注や納入情報を共通のデータベースで管理する。

店頭の動きまで開示

 さらに、このシステムを通じて取引先が、モスの物流センターの在庫や各店舗の販売/在庫、今後の需要予測などの情報を参照できるようにした。この情報を参考に取引先が生産や調達計画を調整することで、商品を品切れさせずに店頭に供給し、かつ作り過ぎを防いで在庫を適正に保つことが狙いだ。

 「物流センターの在庫だけでなく、店舗の在庫や販売量まで公開しているのがポイント」と堀田氏は話す。例えば物流センターの在庫が減少していても、店頭での販売が鈍く、店舗に在庫が滞留している場合、急いで供給する必要はない。逆に新商品などの立ち上がりが予想以上に早い場合には、物流センターの在庫があっという間に払底してしまい生産が間に合わなくなるケースもある。物流センターの在庫を見ているだけでは、顧客のニーズに即応できない。

 そこで店舗の販売情報まで開示することによって、物流センター、取引先というサプライチェーン全体が販売動向に即応して商品を供給できる体制を整えた。公開するのは個店ごとの販売情報ではなく、1つの物流センターが納入する店舗全体の情報を束ねたものだ。販売や在庫の生データのほか、前年の動きやキャンペーンによる影響などの要因を反映して計算した需要予測も開示し、取引先が生産量を判断しやすいよう支援する。

 Mos-Nileには取引先の営業担当者だけでなく、工場長など生産ラインにかかわる人もアクセスできる。「営業担当者が当社向けの生産を依頼しても、生産部門に後回しにされる場合もある。生産部門とも情報を共有して状況を理解してもらうことで、迅速に追加生産に取り組んでもらえるようになった」(堀田氏)

 2002年の稼働から取引先を順次拡大し、現在は57社の生産管理に活用している。この57社との取引は調達額全体の95%を占める。在庫削減効果に関しては、BSE(牛海綿状脳症)問題の影響などで在庫を増やしている品目もあるものの、「取引先を平均すると2割程度の在庫を削減し、最大では7割の削減に成功した取引先もある」(同)と大きな手応えを感じている。

 配送コストの削減にも貢献している。従来は物流センターの在庫が減少した際にメーカーが急いで臨時便を出して補充するケースも多かったが、店頭在庫が見えるようになったことで「センターと店頭の在庫を合わせれば定期便での補充で間にあう」といった判断も可能となるからだ。

 取引先も出荷情報をMos-Nileに入力し、モスの本部や物流センターと情報を共有する。従来はモス本部から取引先への出荷指示や、物流センターへの納品連絡にはファクスを利用していたが、Mos-Nileの導入でほぼ完全なペーパーレス化が実現した。Mos-Nileの開発は外部に委託し、約1億5000万円を投資した。