=== (前編を読む) ===

 独立UHF局のテレビ神奈川(tvk)は,人気の高い音楽番組と連動したデータ放送や地域情報を主なサービスとして,この6月1日にワンセグ放送をスタートさせた。サービス開始と同時に有料の公式携帯サイト内にショッピング・サイトも新設し,放送内容とリアルタイムで連動するようにしたほか,着うた,コンサート・チケット,アーティストのオリジナル・グッズの販売も始めるなど,他局とは少し違ったアプローチでサービスを展開している。そこで同社の編成局モバイル・データ放送部副部長の鈴木邦彦氏に,ワンセグ放送に対する期待とサービス内容について聞いた,後編である。

(聞き手は隅倉 正隆=IT放送技術ジャーナリスト兼コンサルタント)


---ワンセグの視聴者層はどう捉えていますか?

 正直なところあまり分析していません。ワンセグ端末が何台販売されていて,どういった人が購入しているかという情報が少ないですから推測するしか方法はありません。ワンセグを見たいと思っている層と,数万円もする端末を実際に購入している層にギャップがあり,我々からすると本当にワンセグを見てもらいたい人達と軸が異なっていると思っています。このため,現時点ではターゲットとなる視聴者層はあまり意識していません。

 しかし,音楽番組に関してはCDやDVD販売サイトへの誘導を行っていますので,35~49歳の女性層であるF2層と35~49歳の男性層であるM2層の方に買っていただきたいと思っています。

 また,家でテレビを見ながらワンセグ放送を視聴している人が意外と多いとも聞いていますので,音楽番組を見ながらワンセグのデータ放送を併せて視聴していただけているのではないかと想像しています。

 :こういったコマース・サイトの使い方が想定できるとした場合,携帯サイトである2次リンクへ遷移してもらうと,テレビ画面が消えてしまうことを非常に懸念していました。せっかく音楽番組を見てもらっているのに,気に入ったCDやDVDを購入するためにコマース・サイトへ移動すると,今見ていたテレビ画面が消えてしまいます。何とか工夫できないものかと色々議論しましたが,家のテレビを見ながら携帯電話機のワンセグ放送からコマース・サイトに来てもらえるのであれば,その問題は解決できます。あとは,ワンセグ放送からの誘導で購入してもらいやすいように対応すればよいと,思い始めています。

 公式携帯サイトでのCDやDVDの販売を6月1日から始めて,まだ2週間くらいしかたっていませんが,そこそこ来ていただけているという良い感触を得ています。売れている曲はどんなものなのか,どういった年齢の方が購入してくれているのかなどのデータを現在収集している状態ですが,良い結果が得られると思います。

 音楽番組のデータ放送連動サービスですが,本来ならばテレビ番組で紹介しているアーティストの情報が表示されるべきだと思います。でも現在はそこまではできていません。現時点では,1カ月間のレコメンド曲(テーマ曲やエンディング曲程度)だけを紹介している程度です。ですから,7月以降は徐々に連動化を高めて色々な展開を考えています。

--- そのほかに,どのような番組を提供していますか?

 番組連動サービスとしては,音楽関連の番組しか提供していません。具体的には,「Mutoma(Mutoma α,Mutoma Live)」,「Billboard Top 40」のテーマ曲やエンディング曲,「オンガクのDNA」,「YOKOHAMA MUSIC EXPLORER」ですね(表1)。

表1 tvkが提供しているワンセグの番組連動型データ放送番組
6月時点のもので,音楽番組に連動したデータ放送を提供している。

 それ以外では野球中継と連動するサービスを今後提供していきたいと考えています。特に,高校野球の神奈川県予選については,他球場の速報を提供したいと考えています。

 番組とは連動しないデータ放送サービスとしては,ニュース(tvkニュース,全国ニュース),天気予報(神奈川県内各地のもの)を提供しています。これら以外では最初にお話しましたように(前編『地上ディジタルのデータ放送と統合し,「ワンセグ連動型e-コマース」を展開する』参照),市町村の行政情報とイベント情報,そして各地域の「映画館情報」を提供しています(表2図4図5)。

表2 tvkが提供しているワンセグの番組非連動型データ放送番組(6月時点)

図4 ワンセグ放送での県内イベント情報を提供している画面


図5 ワンセグ放送での映画と映画館情報を提供している画面

 ただし,番組連動という意味での双方向サービスは,まだ提供していません。音楽番組の特番などの単発では,携帯サイトやWebサイトでリクエスト募集などの双方向サービスは行ったことはありますが,ワンセグ放送でのレギュラー化した番組ではまだ対応していません。実際にはやりたいという気持ちを持っていますが,対応できるスタッフの数とかが限られていますので,具体的なサービス・イメージはまだ持っていません。

 また,我が社として「どういった番組でやったらよいのか」とか,「どういった方式でやれば効率が良いか」など,まだまだこれから検討していかなければならないことが多くあると思っています。つまり,双方向サービスについては,これからという感じです。

---今後はワンセグ放送を使ってどんなビジネスを展開しようと考えていますか?

 ワンセグ放送サービスをビジネスとして成り立たせるためには,コマースしかないのではと考えています。先ほどもお話しましたが,音楽番組からCDやDVDの販売サイトへ誘導したように,我々が提供しているいくつかの番組から有料携帯サイトへ誘導することによるアフリエイト収入ビジネスを増やしていきたいと考えています。

 また,キー局さんのように多くの番組を持っているわけではありませんが,持っている番組で番組連動に有効な番組とは何か,どのような連動の方法が良いのか,といったことを分類し,番組連動サービスのバリエーションや付加価値を徐々に高めて行きたいと考えています。キー局さんと違って系列局を持っていませんので,フットワークの軽さを生かして,色々なことにチャレンジして行きたいですね。

---人気がある独自制作番組をお持ちの御社は各局へ番組を提供しています。将来,そうした番組と連動するデータ放送を始めたとき,データ放送部分のコンテンツを他局へ番販(番組販売)することは想定していますか?

 系列局の方々は,キー局や準キー局からデータ放送を含めた提供を受け,放送する仕組みを持っています。しかし,我々のような独立UHF局は系列局を持っていませんので,そのような仕組みやルールがありません。

 現在番組提供している先は,基本的に独立のUHF局がほとんどなので,映像と音声だけの番販です。データ放送を含めた番組は提供していません。また,一部地方の系列局さんにも提供している番組がありますが,基本的にはデータ放送はローカル・コンテンツであると考えています。このため,データ放送までを含めた形で番販することは,考えていません。

 ただし,音楽番組については全国でも通用するものに成長させ,かつ番組と連動したデータ放送コンテンツを作ることで視聴者に受け入れられれば,ビジネスとして成立すると考えられます。その時は固定型テレビ向けデータ放送とワンセグ放送向けデータ放送を含めた形で,番販する新ビジネスが展開できるのではないかと期待しています。

 また,受け入れ側のシステムの問題もありますので,系列局以外からのコンテンツ受け入れに関するルール作りなども必要になってくるでしょう。将来,ワンセグ端末の価格が下がり,販売台数と視聴者数が増えれば,このようなビジネスも期待できると思っています。

---今後の課題・問題点は何でしょうか?

 我々が考えていることは,固定型テレビ向け地上デジタルテレビジョン放送のデータ放送,有料の公式携帯サイト,ネット上のWebサイトと,ワンセグ放送をどのように上手く連携させてビジネスにしていくかということです。

 また,現在ワンセグ放送は,サイマル放送が義務づけられており,ワンセグ専用の番組を提供できませんので,そのサイマル放送(ワンセグの理解を深めるキーワード解説:「サイマル放送(サイマルキャスト)」参照)の間(つまり当面の間)は,ワンセグ放送から我々が提供している有料の公式携帯サイトへの誘導によるビジネスと1次リンクと2次リンクの使い方に関して色々な実験をしたいと考えています。これらの課題を一つひとつクリアーしながら進めていきます。

 もう一つ重要なのは,県民・地域住民に便利な情報を提供するという視点から,災害情報の提供です。こちらの提供方法などを現在検討中です。

 また,2008年以降,サイマル放送の必要がなくなったときに,どんなことをやればよいのかということをこの2年間で検討していきたいと考えています。

 さらに,ワンセグ放送のデータ放送トップ画面のページビューのアップと,映像・音声+データ放送を同時に見ていただける,いわゆる携帯電話機を縦型で見てもらうために,常に最新情報や興味を引く情報をデータ放送コンテンツや1次リンク・コンテンツとして提供していくかが課題になります。少ないスタッフで対応していますが,これからも皆さんに見ていただけるコンテンツを効率よく提供していきたいと考えています。

=== (前編を読む) ===